第6話 証券会社に聞いてみよう(その1)

文字数 1,785文字

 (6) 証券会社に聞いてみよう

 俺、ルイーズとポールの3人でフォーレンダム証券を訪問した。
 販売している劣後社債の件でクレームがあったから状況を聞かせてほしいと事前に要件を伝えている。

 フォーレンダム証券は売上規模がジャービス王国内10位に位置する中堅証券会社だ。会社のホームページには、従業員数が前期末時点で80名となっているから、小さいわけではない。
 フォーレンダム証券の受付から応接室に案内された俺たちは、社長のオウルが出てくるのを待っている。
 それにしても受付も応接室も、金を掛けている。総務省とは大違いだ。
 ポールの話では、受付も応接室もホラント証券よりも豪華な造りのようだ。投資家に儲かっている印象を与えなければ、信用して資産を預けてくれないから、中堅証券会社にとっては、豪華な受付や応接室は必要な投資だそうだ。

 応接室で少し待っていると、社長のオウルが「遅くなって申し訳ありません」と言って応接室に入ってきた。

「いえいえ。いま到着したところです」と俺は返した。続いて、俺はまずオウルに簡単な挨拶をした。

「はじめまして、総務省のダニエルです。こちらは、同じ部署のルイーズとポールです」

「私は、フォーレンダム証券の社長をしているオウルと申します。ダニエル部長の噂はかねがね聞いております」とオウルは挨拶した。

 どうせ良くない噂だろうが、『どんな噂ですか?』と掘り下げるほど俺も子供ではない。

「早速ですが、今日伺った趣旨は、個人投資家からクレームがあった劣後社債について、お話しを伺うためです」と俺はオウルに話を切り出した。

「事前に要件は伺っております。まず、取引の経緯から説明しても大丈夫ですか?」とオウルは言った。

「お願いします」

「当社が劣後社債の販売に関わるようになったのは、トルネアセットマネジメントが組成したファンドの劣後社債が思うように売れず、社長のシモから相談を受けたのがきっかけでした」

「そうですか」

「ファンドが発行する普通社債の外部格付はA+(シングル・エー・プラス)です。投資適格債ですから、何もしなくても機関投資家に販売できます。機関投資家は投資する先がなくて、どこも困っていますから」

※投資適格とは、社債や発行体の信用力が高い状態のことをいいます。主な格付け会社では「Baa又はBBB格相当以上」を投資適格としています。

「そのようですね。金余りなのは、どこに行っても聞きます」と俺が反応すると、オウルは話を続けた。

「そうなんです。それに比べて、劣後社債は投資適格債ではありません。このため、投資家に販売するためには、積極的に営業しないといけません」

「劣後社債を売るのは大変なんですね」

「最初は本当に大変でした。ただ、劣後社債を精査してみると、なかなか良い商品だと判断しました。具体的には、裏付けとなる住宅ローン債権は貸倒率が低く、劣後社債の元利金の支払いは問題なさそうでした」

「よい商品ですか」

「はい。それと、当社は個人投資家への販売を得意としているため、『商品が悪くなれば何とか販売できるだろう』という算段もありました。このため、トルネアセットマネジメントから劣後社債の販売を引き受けることにしたのです」とオウルは言った。

 フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントの利害が一致したから、劣後社債の販売をスタートした。理由として特に違和感はない。

「販売開始の経緯は分かりました。次に、御社ではIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を積極的に活用していると聞きました。御社でのIFAの制度について教えてもらえますか?」と俺は別の質問をした。

「最近はIFAを利用している証券会社は増えていますが、当社は他社よりも早い段階から始めたので、業界内では当社がIFAに力を入れていると広まっているのかもしれません」と言って、オウルはIFA制度の導入について語り始めた。

「当社の顧客はもともと個人投資家向けの証券会社なので、個人営業が得意です。と言っても、大手証券会社とは違って、営業部署の人数が限られているため、全ての見込顧客に営業できるだけのマンパワーはありません。このため、営業網を広げるために、IFAを活用するようになりました」

 人材不足か・・・。
 総務省も慢性的に抱えている問題だな。
 俺はオウルに少し親近感が沸いた。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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