第1話 キャッチーなネーミング(その2)
文字数 1,648文字
(1)キャッチーなネーミング <続き>
会議室に集められた俺たち兄弟は、国王と極力目を合わさないように座っている。誰も関わりたくないからだ。誰も発言しないので、しびれを切らして国王が発言した。
「我が国で内部調査を本格化していくにあたって、全国から相談を募集しようと思う。今日集まってもらったのは他でもない、国民が不正を告発しやすい、キャッチーなネーミングを考えてほしい」
どうやら、相談窓口を設けることは既定路線のようだ。そして、内部調査部は俺が部長だから、決定事項は俺に回ってくる。
「え?」俺達兄弟は顔を見合わせた。
これでも俺たちは忙しい。そんなくだらない会議に呼ばないでほしい、と思っているはずだ。さっきは『チバ』の活用方法を熱心に語っていたアンドリューでさえ、あまり乗り気ではない。当然、俺も乗り気ではない。
様子見をしていた他の3人をよそ眼に、第1王子のジェームスが投げやりに言った。
「『内部告発ホットライン』はどうでしょうか?」
よく言った。さすが長男だ。早くこの会議を終わらせよう。
「それでいいと思います」第2王子のチャールズも投げやりだ。
「私もそう思います」第3王子のアンドリューも同じく。
次は俺の発言の番だ。
「私もいいと思います。じゃあ、『内部告発ホットライン』に決定ということで、国王、よろしいでしょうか?」と俺は兄弟の空気を読んで会議を終わらせようと動いた。
すると、「ちょっと待て」と国王は言った。
俺たち兄弟が国王をみると、国王は続けて言った。
「他の案はないのか?」
どうやら、一択で決定するのが不満なようだ。
「それなら、ヘルプデスクはどうでしょう?」仕方ないので、俺が候補を出した。
「対象が広すぎないか?何のヘルプデスクか分からないから、却下。他には?」これは気に入らないようだ。
「じゃあ、王国相談窓口はどうですか?」と俺はもう一つ案を出した。
でも、俺ばかり案を出すのは不公平じゃないか。チバニアンのアンドリューにも案を出させないといけない。
「チバニアン!」と俺は小声でアンドリューに発言を促した。
「私からも一つ提案します。状況としては、国民がひどい目に遭っているから国王に助けてほしい、ということですよね」
「そうだ」国王は言った。
「じゃあ、『国王、困っています。散々な目に会いました。』の略で、『コックリサン』はどうでしょう?」
アンドリューは相変わらずのネーミングセンスだ。
国王はこれを無視して「他には?」と言った。
アンドリューは傷付いている・・・。
俺がフォローしないといけない。
「『越後屋連絡網』はどうでしょう?」
最近俺は時代劇にハマっている。時代劇で悪役と言えば「越後屋」だ。
「意味が逆じゃないか?越後屋は悪役だろ。悪役の連絡網は、今風に言えばマフィアのネットワークではないか?」
「そう言われれば逆ですね。じゃあ『アンチ越後屋ネットワーク』はどうでしょう?」
悪役を否定するネットワークだから、正義のネットワークだろう。
「余計にややこしくなったような気がするな。「Not悪役」だから、変換すると「Not Not 正義」。Notが二重否定されているから、正義のネットワークという意味だ。二重否定にすると、意味を理解するのに時間が掛からないか?」
「確かに」国王が言うことはもっともだ。
二重否定は分かりにくい。「必ずしも誤りとは言い切れない」など政治家が得意な表現だ。
「お前の中の正義とは何だ?」
「昨日見たのは水戸黄門です。『黄門ネットワーク』の方がいいですか?」
「下ネタはダメだ。却下!」と国王は言った。
理由は誰の目にも明らかだった。
その後30分の間に20個のネーミング案が出たものの却下が続き、内部告発ホットラインと王国相談窓口の一騎討ちとなった。
投票の結果、
「内部告発ホットラインで決定する」と国王が宣言した。
開始10秒で分かっていたことだった。これでも俺たちは忙しい。
こうして、ジャービス王国で内部告発ホットラインの運用が始まった。
会議室に集められた俺たち兄弟は、国王と極力目を合わさないように座っている。誰も関わりたくないからだ。誰も発言しないので、しびれを切らして国王が発言した。
「我が国で内部調査を本格化していくにあたって、全国から相談を募集しようと思う。今日集まってもらったのは他でもない、国民が不正を告発しやすい、キャッチーなネーミングを考えてほしい」
どうやら、相談窓口を設けることは既定路線のようだ。そして、内部調査部は俺が部長だから、決定事項は俺に回ってくる。
「え?」俺達兄弟は顔を見合わせた。
これでも俺たちは忙しい。そんなくだらない会議に呼ばないでほしい、と思っているはずだ。さっきは『チバ』の活用方法を熱心に語っていたアンドリューでさえ、あまり乗り気ではない。当然、俺も乗り気ではない。
様子見をしていた他の3人をよそ眼に、第1王子のジェームスが投げやりに言った。
「『内部告発ホットライン』はどうでしょうか?」
よく言った。さすが長男だ。早くこの会議を終わらせよう。
「それでいいと思います」第2王子のチャールズも投げやりだ。
「私もそう思います」第3王子のアンドリューも同じく。
次は俺の発言の番だ。
「私もいいと思います。じゃあ、『内部告発ホットライン』に決定ということで、国王、よろしいでしょうか?」と俺は兄弟の空気を読んで会議を終わらせようと動いた。
すると、「ちょっと待て」と国王は言った。
俺たち兄弟が国王をみると、国王は続けて言った。
「他の案はないのか?」
どうやら、一択で決定するのが不満なようだ。
「それなら、ヘルプデスクはどうでしょう?」仕方ないので、俺が候補を出した。
「対象が広すぎないか?何のヘルプデスクか分からないから、却下。他には?」これは気に入らないようだ。
「じゃあ、王国相談窓口はどうですか?」と俺はもう一つ案を出した。
でも、俺ばかり案を出すのは不公平じゃないか。チバニアンのアンドリューにも案を出させないといけない。
「チバニアン!」と俺は小声でアンドリューに発言を促した。
「私からも一つ提案します。状況としては、国民がひどい目に遭っているから国王に助けてほしい、ということですよね」
「そうだ」国王は言った。
「じゃあ、『国王、困っています。散々な目に会いました。』の略で、『コックリサン』はどうでしょう?」
アンドリューは相変わらずのネーミングセンスだ。
国王はこれを無視して「他には?」と言った。
アンドリューは傷付いている・・・。
俺がフォローしないといけない。
「『越後屋連絡網』はどうでしょう?」
最近俺は時代劇にハマっている。時代劇で悪役と言えば「越後屋」だ。
「意味が逆じゃないか?越後屋は悪役だろ。悪役の連絡網は、今風に言えばマフィアのネットワークではないか?」
「そう言われれば逆ですね。じゃあ『アンチ越後屋ネットワーク』はどうでしょう?」
悪役を否定するネットワークだから、正義のネットワークだろう。
「余計にややこしくなったような気がするな。「Not悪役」だから、変換すると「Not Not 正義」。Notが二重否定されているから、正義のネットワークという意味だ。二重否定にすると、意味を理解するのに時間が掛からないか?」
「確かに」国王が言うことはもっともだ。
二重否定は分かりにくい。「必ずしも誤りとは言い切れない」など政治家が得意な表現だ。
「お前の中の正義とは何だ?」
「昨日見たのは水戸黄門です。『黄門ネットワーク』の方がいいですか?」
「下ネタはダメだ。却下!」と国王は言った。
理由は誰の目にも明らかだった。
その後30分の間に20個のネーミング案が出たものの却下が続き、内部告発ホットラインと王国相談窓口の一騎討ちとなった。
投票の結果、
「内部告発ホットラインで決定する」と国王が宣言した。
開始10秒で分かっていたことだった。これでも俺たちは忙しい。
こうして、ジャービス王国で内部告発ホットラインの運用が始まった。