第3話 不正融資の内容を確認しよう(その1)

文字数 1,807文字

(3) 不正融資の内容を確認しよう

 俺たちは、内部告発ホットラインに情報をくれたウォルターと会うことになった。
 今日のメンバーは、俺、ミゲルとガブリエルだ。
 ウォルターの職場に俺たちが行くわけにいかないし、ウォルターが総務省に入ってくるのを誰かに見られたらまずい。だから、ウォルターの職場から1駅離れた場所にある喫茶店で話を聞くことにした。
 喫茶店に入ってきたウォルターと簡単な挨拶をした後、俺たちはウォルターから不正融資の具体的な内容を聞くことにした。

「御社で不正融資が行われていると内部告発ホットラインに送られてきました。御社で行われている不正融資の具体的な手口を教えてもらえますか」と俺はウォルターに尋ねた。

「まず、私の働いているレンソイス不動産は、中堅規模の不動産ディベロッパーです。収益不動産を個人に販売することが主な事業です」とウォルターは言った。

「ああ、レンソイス不動産。電車のつり革広告を見たことがあります」と俺は言った。

「最近よく広告を出していますからね。不動産販売は露出を上げないと個人に売るのが難しいんです。当社の主に顧客は、一般企業の役職員や公務員です。一般の個人が知らない会社から不動産を買おうと思いませんよね?」

「確かに、分かる気がするなー」

「当社から個人が不動産を購入する場合、大半の個人は銀行借入します」

「そうでしょうね。一般人はそんなにお金を持っていませんから」

「一般的に、銀行借入で収益物件を取得する場合は、不動産の純収益を原資に借入金を返済します。でも、当社の販売する収入物件は利回りが低いので、不動産の収益だけで借入金を完済するのが難しいのです」とウォルターは言った。

「不動産の収益性が低い・・・。ちなみに、御社が販売している収益物件のキャップレートは何パーセントですか?」と俺は聞いた。

 ※キャップレート(不動産の物件利回り)=物件純収益÷物件価格

「物件によって違いますけど、平均すると約5%ですね」

「5%かー。10年国債金利が3%なので、スプレッドは2%。ちょっと低いですね」

「まあ、プロは高くて買わないですね・・・」ウォルターは苦笑いして言った。

「あと、顧客が収益物件の購入資金として融資を受ける場合、借入金利とLTVはどれくらいですか?」

※LTV(借入金比率)=借入金÷不動産価格

「そうですねー。当社の平均的な顧客の借入金利は約5%、LTVは90%です。LTVは他社と比べても高いでしょう」

「LTVが90%?高いなー。借入金金利とキャップレートが同じなので、物件収益はほとんど利息で消えますね。と言うことは、元本返済には不動産以外の収入が必要になりますよね?」

 ※不動産物件の価格が100の場合、不動産の年間収益は5(=100×5%)、借入金の支払利息は4.5(=100×5%×90%)です。

「そうです。不動産収入と支払利息がほぼ同額なので、顧客の給与所得で元本の大半を返済しないといけません。そういう事情で、銀行借入する場合には、個人顧客の給与所得が重要になんです」とウォルターは言った。

「給与所得の高い顧客の方が、銀行から多く借入できますからね」

「そうです。給与所得が低い個人顧客は、銀行から多く借入できません。一方で、当社はできるだけ高く不動産を個人顧客に売りたい。だから、個人顧客には銀行から目一杯借りてもらわないといけません」

「だから、審査書類の改竄(かいざん)が行われるわけですね?」

「ええ。当社の全員が改竄しているわけではありません。でも、一部の従業員は、銀行から少しでも多く融資額を引き出すために、顧客の給与や不動産収入を実際よりも良く見せて、ローンの審査書類を作成しています」とウォルターは歯切れ悪く言った。

「銀行のローン審査には、収入を証明する確定申告書や源泉徴収票を提出しますよね?御社の一部の従業員は顧客の確定申告書や源泉徴収票も偽造しているのですか?」

「当社の従業員は審査書類や確定申告書を偽造しません。でも、偽造書類を作成してくれる業者があって、その偽造業者が顧客の代わりに書類を作成しているようです」

「偽造業者・・・。顧客は自分で偽造しないのですか?」

「基本的に偽造業者が作ります。顧客が自分で作成すると、いろいろと不整合が出てきたりするので、専門業者に依頼した方が完成度の高い偽造書類が出来るからです」

 完全に詐欺だな・・・

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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