第5話 抵当権と譲渡担保(その2)

文字数 1,308文字

(5) 抵当権と譲渡担保 <続き>

 俺が譲渡担保の説明を終えたことを確認して、ルイーズが俺に話しかけてきた。

「それで、この譲渡担保は何のためだと思う?」

「うーん、目的がよく分からないな。ロワール銀行の抵当権が抹消されているから、借入金はLファイナンスが肩代わりしたのだろう。譲渡担保にしたということは、Lファイナンスは直ぐに売却したいと思っている」

「そうね。銀行に返済できなくなって、ノンバンクから借入したのは分かる」

「問題はその後だよね」と俺は当然のことを言う。

「さっきから、そう言っているじゃない」
 ルイーズは少しイライラしてきた。

「そうだ。登記簿謄本の中で、譲渡担保の後、担保物件を売却しているものはなかった?」

「20件ある。個人投資家の数としては、5人。譲渡担保の後、別の個人投資家に売却されている。ロワール銀行の抵当権が設定されているから、購入資金は借入金で賄ったのだと思う」とルイーズは答えた。

「すると、不動産登記簿謄本から所有権、貸付人、担保の推移はこんな感じになるのかな?」

 俺はそう言ってホワイトボードに図(図表4-1-3)を書いた。


【図表4-1-3:不動産登記簿謄本による所有権、貸付人、担保の推移】

 


「そうね。こんな感じ」とルイーズは言った。

 そうすると、担保実行されてLシリーズを売却された個人投資家に会うことができれば、一連の不動産取引の流れを把握することができそうだ。

「じゃあ、担保実行されてLシリーズを売却された個人投資家に会って、話を聞いてみよう。何があったか聞けば、今回の取引を理解するヒントになると思う」と俺はメンバーに提案した。

「個人投資家は不動産投資に失敗して落ち込んでいると思います。失敗したことを根掘り葉掘り私たちに聞かれることになります。個人投資家は話すのを嫌がりませんか?」とスミスが遠慮がちに言った。

 確かに、スミスが言わんとしていることは分かる。

 自分の失敗談を他人に話すのは恥ずかしい。
 個人投資家にとっては傷口に塩を塗り込まれるのと同じだ。
 でも、担保実行されてLシリーズを売却された個人投資家に取引の全容を聞かなければ、内部調査部の調査が進まないのも事実だ。

「俺たちは個人投資家の失敗談を興味本位で聞きにいくわけじゃない。それに、個人投資家に話を聞かないと、一連の不動産取引を把握することができない。個人投資家には内部調査部の調査の趣旨をよく説明したうえで、協力してもらうしかないよね」

「そうですね」とスミスは言った。

「それに、担保実行されてLシリーズを売却された個人投資家はレンソイス不動産のことを恨んでいるはずだ。だから、きっと調査に協力してくれるんじゃないかな?」と俺は言った。

 誰かが個人投資家に電話を掛けて事情を説明しなければいけないのだが、誰もこの役はやりたくない。
 電話する人はジャンケンで決めるしかないかな?


 でも、担保実行されてLシリーズを売却された個人投資家に話を聞けば、レンソイス不動産、マラニ印刷、ロワール銀行、Lファイナンスの一連の取引の流れが掴めるはずだ。

 こうして、俺たちは、不幸な個人投資家のディーンに会いに行くことにした。
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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