第8話 競売に参加しよう(その2)
文字数 2,201文字
(8) 競売に参加しよう <続き>
俺は話を続けた。
「個人投資家の返済可能額を超えた借入金なので、当然、個人投資家は借入金の元利金返済を遅延します」
「そうだろうね」
「個人投資家が銀行からの借入金を返済できなくなると、不動産会社は借換えをするためのノンバンクを紹介します。そのノンバンクの貸出条件は、1年間の期限一括返済で、譲渡担保です。返済期限の1年後に難癖を付けて、ローンを借換えさせず、担保実行して競売にかけます」
「競売するんだ。珍しいね」
「担保物件の競売に入札するのは、物件を販売した不動産会社です。不動産会社は競売に掛った担保物件を販売金額の50%で競落します」
「不動産会社は不動産物件を半額で買い戻するのか・・・」
「そうです。一連の取引によって、個人投資家は多額の損失を被ります。一方で、損失を被った個人投資家は不正融資を行った張本人です。不正融資の被害者である銀行は、ノンバンクの借換えで全額ローンの返済を受けているため、損害はありません」
「へー。不動産会社、銀行、ノンバンクがグルになって、個人投資家をカモにしてるな」
「不正融資は行われているものの被害者はいない。さらに言うと、不正融資の加害者が一番の被害者なんです」と俺は言った。
「そうだな」
「内部調査部で調査したところ、銀行の担当者は書類偽造などを知っていました。つまり、銀行の担当者は不正融資と知りながら、貸付を行っています。銀行の担当者は銀行に損害を与える可能性があったので、背任行為です。銀行内部では問題でしょう」
「まあ、そうだな」
「どう対応するかは分かりませんが、調査権限がない内部調査部ではここまでが限界です。後は警察などで対応をお願いできませんか?」
「分かった。報告書を見て対応を検討する。それが相談の1件目だね?」
「そうです」
「もう一件は?」
「2件目の相談は、不動産の競売に参加しようと思っています。その資金を出してもらえませんか?」と俺は言った。
「結局、お金の話なんだね」とチャールズは笑いながら言った。
どうせ、お金の話ですよ・・・
****
俺は気を取り直してチャールズに説明する。
「先ほど説明した不動産取引の中で、不動産会社はLシリーズを販売価格の50%で落札しています。実際のLシリーズの市場価格は販売価格の約80%です。つまり、不動産会社は競売でかなり安い金額で落札しているのです」
「中古市場で売ったら販売価格の30%儲かるね」
「ええ。だから、我々が不動産の競売に参加して、販売価格の約70%で落札し、市場価格(販売価格の80%)で売却しようと思います。それほど多く取得するわけではないので、資金は5億JDもあれば十分です」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「5億JDか・・・。金額は特に問題ない。ただ、ダニエルのところが競売に参加することに、どういう意味があるのかが分からないのだけど」とチャールズは言った。
「目的は、競売における入札金額の引き上げです」
「入札金額の引き上げ?」
「Lシリーズの競売では、市場価格が販売価格の80%なのに、個人投資家は販売価格の50%で売却させられています。これは、我が国の競売がうまく機能していないからです」
「参加者が少ないということかな?」
「そうです。不動産の競売の参加者が多ければ、入札額が上がります」
「そうだな」
「それに、競売による売却額が増加すれば、債権者や債務者が回収できる金額が増加します。なので、我々が競売に参加すれば、ジャービス王国の競売制度の活発化に繋がるはずです」
「そういう意味か。まあ、目的はともかく、どれくらい儲かるの?」とチャールズは聞いてきた。
― こいつの頭には金のことしかないのか?
俺は『こいつの頭には金のことしかないのか?』と思ったものの、チャールズの質問に答える。
「入札対象として考えているのは、さっき説明したレンソイス不動産のシングルタイプのLシリーズです。この物件を1部屋当たり1,400万JDで落札して、1部屋当たり1,600万JDで売却する予定です」
【図表4-1-6:不動産価格の比較】
「利益は1部屋当り200万JDか」
「そうです。利益は1部屋当たり200万JD、投資利益率は約14%(=200万JD÷1,400万JD)です。売却予定価格の1,600万JDは、中古市場での取引価格として適正価格なので、普通に売却できると思います。競売で取得した不動産物件の取得から売却までの期間は1カ月程度を見込んでいます。これを1年に5回転できれば、利益は年率70%(=14%×5回)です」
「5億JDを競売物件に投資したら、年間の利益が3億5,000万JD(=5億JD×70%)。いいねー」チャールズは乗ってきた。
「そうでしょ」
「競売物件は儲かるな。Lシリーズ以外にも利益が出そうな競売物件があれば、積極的に競売に参加してくれ。お金は必要なだけ、用意するから」とチャールズは気前よく言った。
「お願いします。ところで、競売物件の中には、元の所有者が物件を占有しているケースがあるんです。占有屋もいるようですし、そういう場合は、立退や強制執行の手続をお願いしてもいいですか?」
「もちろん! 全面的に協力するよ」
チャールズは機嫌良く言った。
これで競売に参加するための準備は整った。
<続く>
俺は話を続けた。
「個人投資家の返済可能額を超えた借入金なので、当然、個人投資家は借入金の元利金返済を遅延します」
「そうだろうね」
「個人投資家が銀行からの借入金を返済できなくなると、不動産会社は借換えをするためのノンバンクを紹介します。そのノンバンクの貸出条件は、1年間の期限一括返済で、譲渡担保です。返済期限の1年後に難癖を付けて、ローンを借換えさせず、担保実行して競売にかけます」
「競売するんだ。珍しいね」
「担保物件の競売に入札するのは、物件を販売した不動産会社です。不動産会社は競売に掛った担保物件を販売金額の50%で競落します」
「不動産会社は不動産物件を半額で買い戻するのか・・・」
「そうです。一連の取引によって、個人投資家は多額の損失を被ります。一方で、損失を被った個人投資家は不正融資を行った張本人です。不正融資の被害者である銀行は、ノンバンクの借換えで全額ローンの返済を受けているため、損害はありません」
「へー。不動産会社、銀行、ノンバンクがグルになって、個人投資家をカモにしてるな」
「不正融資は行われているものの被害者はいない。さらに言うと、不正融資の加害者が一番の被害者なんです」と俺は言った。
「そうだな」
「内部調査部で調査したところ、銀行の担当者は書類偽造などを知っていました。つまり、銀行の担当者は不正融資と知りながら、貸付を行っています。銀行の担当者は銀行に損害を与える可能性があったので、背任行為です。銀行内部では問題でしょう」
「まあ、そうだな」
「どう対応するかは分かりませんが、調査権限がない内部調査部ではここまでが限界です。後は警察などで対応をお願いできませんか?」
「分かった。報告書を見て対応を検討する。それが相談の1件目だね?」
「そうです」
「もう一件は?」
「2件目の相談は、不動産の競売に参加しようと思っています。その資金を出してもらえませんか?」と俺は言った。
「結局、お金の話なんだね」とチャールズは笑いながら言った。
どうせ、お金の話ですよ・・・
****
俺は気を取り直してチャールズに説明する。
「先ほど説明した不動産取引の中で、不動産会社はLシリーズを販売価格の50%で落札しています。実際のLシリーズの市場価格は販売価格の約80%です。つまり、不動産会社は競売でかなり安い金額で落札しているのです」
「中古市場で売ったら販売価格の30%儲かるね」
「ええ。だから、我々が不動産の競売に参加して、販売価格の約70%で落札し、市場価格(販売価格の80%)で売却しようと思います。それほど多く取得するわけではないので、資金は5億JDもあれば十分です」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「5億JDか・・・。金額は特に問題ない。ただ、ダニエルのところが競売に参加することに、どういう意味があるのかが分からないのだけど」とチャールズは言った。
「目的は、競売における入札金額の引き上げです」
「入札金額の引き上げ?」
「Lシリーズの競売では、市場価格が販売価格の80%なのに、個人投資家は販売価格の50%で売却させられています。これは、我が国の競売がうまく機能していないからです」
「参加者が少ないということかな?」
「そうです。不動産の競売の参加者が多ければ、入札額が上がります」
「そうだな」
「それに、競売による売却額が増加すれば、債権者や債務者が回収できる金額が増加します。なので、我々が競売に参加すれば、ジャービス王国の競売制度の活発化に繋がるはずです」
「そういう意味か。まあ、目的はともかく、どれくらい儲かるの?」とチャールズは聞いてきた。
― こいつの頭には金のことしかないのか?
俺は『こいつの頭には金のことしかないのか?』と思ったものの、チャールズの質問に答える。
「入札対象として考えているのは、さっき説明したレンソイス不動産のシングルタイプのLシリーズです。この物件を1部屋当たり1,400万JDで落札して、1部屋当たり1,600万JDで売却する予定です」
【図表4-1-6:不動産価格の比較】
「利益は1部屋当り200万JDか」
「そうです。利益は1部屋当たり200万JD、投資利益率は約14%(=200万JD÷1,400万JD)です。売却予定価格の1,600万JDは、中古市場での取引価格として適正価格なので、普通に売却できると思います。競売で取得した不動産物件の取得から売却までの期間は1カ月程度を見込んでいます。これを1年に5回転できれば、利益は年率70%(=14%×5回)です」
「5億JDを競売物件に投資したら、年間の利益が3億5,000万JD(=5億JD×70%)。いいねー」チャールズは乗ってきた。
「そうでしょ」
「競売物件は儲かるな。Lシリーズ以外にも利益が出そうな競売物件があれば、積極的に競売に参加してくれ。お金は必要なだけ、用意するから」とチャールズは気前よく言った。
「お願いします。ところで、競売物件の中には、元の所有者が物件を占有しているケースがあるんです。占有屋もいるようですし、そういう場合は、立退や強制執行の手続をお願いしてもいいですか?」
「もちろん! 全面的に協力するよ」
チャールズは機嫌良く言った。
これで競売に参加するための準備は整った。
<続く>