第9話 デューデリジェンス(その7)

文字数 1,462文字

(9)デューデリジェンス <続き>


 データルームとして設けられた隣の部屋は、会議室よりもさらに殺風景だった。
 会議室も必要最低限の備品しか置いてなかったが、この部屋には長机とパイプ椅子以外に何もない。さらに言うと、窓もない。
 長時間の作業には不向きな部屋だ。
 この部屋に長い間いると憂鬱になりそうだ。
 普段は何に使っているのだろうか?

 私がロイに「お仕置き部屋かな?」と言ったら「そんなわけないでしょ」と返された。
 でも、本当にお仕置き部屋だったとしても私には違和感はない。

 データルームの長机の上に契約書と帳簿書類が置いてあった。
 ただ、机の上に置かれた書類の分量は少ない。
 第13穀物倉庫を調査した時の10分の1以下だ。

 私、ロイ、ポールの3人は、デトロイト監査法人のトーマスたちと分担してデューデリの作業に取り掛かった。

 作業開始から1時間が経過したころ、トーマスが私に話しかけてきた。

「月次試算表を見た段階で予想していましたが、ジャービット・エクスチェンジとジャービットの2社には預金と投資有価証券しかありません」

「固定資産はどうですか?」

「ジャービット・エクスチェンジには少額の有形固定資産が計上されています。でも、既に減価償却が終了しているので備忘価格(資産として忘れないために、例えば1円で資産計上する方法)です。同様に、無形固定資産も償却済です」

 ジャービット・エクスチェンジとジャービットには、想像しているよりも何もなさそうだ。
 私は投資有価証券についてトーマスに質問した。

「投資有価証券はそれなりに件数がありますよね?」

「そうですね。投資有価証券は親会社のジャービットに計上されています。ジャービットは過去5年間の累計で約100社に投資していて、現時点の投資先は60社です」

「40社減っているのですね」

「減少している40社の内訳は、第三者への相対での売却が20社、上場後の売却が5社、その他15社が倒産しています」

「倒産が15社ですか・・・」

「5年間投資していますから、それくらいは倒産するでしょう」

「そうですか。現預金は問題ありませんか?」

「預金残高は残高証明書と照合しました。顧客の預り資産については、帳簿と銀行口座の動きを照合しましたが、問題のある社外流出はありませんでした」

「じゃあ、分別管理は問題なさそうですね」

「あとは、投資有価証券に計上されている60社の株式を簿価純資産額で評価したら財務デューデリの作業は終了です」とトーマスは言った。

「思ったよりも早く済みそうですね。こちらも契約と議事録を確認しましたが、特に問題点はありませんでした。ジャービット・コインの発行数量も、先ほどホセから聞いた話と一致していますね」

「今のところ問題点はなしですね。じゃあ、私たちはこれから投資有価証券の評価に必要な書類を確認します。現地での作業はあと1時間くらいで終わると思います」

 デューデリの作業は順調に進んでいる。
 私たちも残っていた契約書類等を確認したが、問題点は発見されなかった。

 ちょうど1時間くらいしたら「今日の作業は終わりました」とトーマスが言った。
 現地作業は終了したので、私たちはホセたちに礼を言ってジャービット・エクスチェンジを引き上げた。

 別れ際にトーマスは「調査結果をまとめて、2日後に報告書のドラフトを送ります」と言った。
 ジャービット・エクスチェンジとジャービットには負債がなく、資産も投資有価証券以外は評価が必要ない。

 デューデリは思っていたよりも早く終わりそうだ。

 <続く>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み