第6話 続・家族会議(その1)
文字数 1,895文字
(6)続・家族会議
俺は国民へのアンケート調査の結果と今後の対応策を説明するため家族会議を招集した。
参加者はジャービス国王と兄3人と俺だ。
俺は参加者に為替レートに関するアンケート結果(図表7-4)を配り、内容を説明した。
【図表7-4:為替レートに関するアンケート結果(再掲)】
まず、小売業はジャービス・ドル高(為替レートが下がる)を希望している。輸入品の仕入価格が上がっており、ジャービス・ドル安が小売業の収益を圧迫しているからだ。
逆に農業関係者はジャービス・ドル安(為替レートが上がる)を希望している。ジャービス・ドル安になれば農作物の輸出価格が上がって、農業関係者の収益が増加するからだ。
その他の企業や個人は意見が割れている。ジャービス・ドル高(為替レートが下がる)の方が少し多いようだが、ジャービス・ドル安(為替レートが上がる)を希望する数と大きく違いはない。
つまり、業績が為替レートの影響を受ける小売業と農業関係者以外は、為替レートの変動について強い主張はないように思える。
内部告発ホットラインで実施した簡易な世論調査の結果について、俺が一通り説明したら、結果説明を聞いていた国王が言った。
「意外な結果だ。私が想像していたよりも、国民は『ジャービス・ドル高がいい』と思っているわけではないのだな」
「そうなんです。小売業と農業関係者はハッキリ意見が分かれます。為替レートが業績に直結しますから。その他は、個人も企業もどちらでもないようです」と俺は答えた。
「そうすると、どう対策すればいいと思う?」と国王は俺に聞いた。
「あくまで私見ですが・・・」
俺はそう言うと、事前に用意していた資料を家族会議の参加者に配った。
全員に資料を配った後、俺は話を続けた。
「私は、ジャービス・ドル安はジャービス王国の経済発展に大きく寄与すると思っています。だから、ジャービス・ドル安を使わない手はありません」
「ほう・・」と国王は言った。
とりあえず俺の話を聞いてみようと思っているらしい。
俺は家族会議の参加者に配った資料(図表7-12)を使って説明を始めた。
【図表7-12:金利差と為替レート(再掲)】
「まず、ジャービス・ドルの金利を引き下げて、ジャービス・ドル安を誘導します。さらに、政策金利を引き下げる前に米ドルを大量に、例えば1兆JD購入しておけば、金利引き下げ時に莫大な利益を捻出することができます」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「ダニーはいつも金儲けのことしか考えてないな・・・。それで、どれくらい利益が出るんだ?」とチャールズ(第2王子、内務大臣)が茶化して言った。
チャールズの言い方にイラっとしたが、俺は説明を続けた。
「ジャービス・ドル金利を1%に引き下げた場合、為替レートの理論値は1米ドル=170JDと想定しています」
「その理論値はどうやって計算したんだ?」とチャールズが言った。
「為替の10年フォワードレートを1米ドル=127JDとして、逆算して計算しています」と俺は答えた。
「へー、そんな方法があるんだ」
「2国間の経済環境が変わらなければ為替レートの長期的な水準は変わらないだろう、という仮定のもと計算しています。それとは別に、ヘッジファンドがジャービス・ドルを空売りしているようですから、短期的には理論値を超えて、1米ドル=190JDくらいまでジャービス・ドル安が進むと考えています」
「そうかもね」
「1米ドル=140JDで1兆JD分の米ドルを購入すれば約71億米ドル(=1兆JD÷140JD/米ドル)です。1米ドル=190JDの時に売却すれば、1兆3,571億JD(=約71億米ドル×190JD/米ドル)で売却できるので、利益は3,571億JD(=1兆3,571億JD-1兆JD)発生します」
「利回りは35%か。儲かるなー」とチャールズは呟いた。
「儲かりますね」
「でもさ、急激なジャービス・ドル安を誘導すると、企業や国民から文句が出ないか?」チャールズが俺に言った。
「出るかもしれませんね。でも、3,571億JDの利益が出ているわけですから、その利益を原資にして経済対策を実施することができます。もし、ジャービス・ドル安によって収益が悪化する企業や国民がいれば、個別に補助金を設定して支援すればいいでしょう。そうすれば、ジャービス王国の企業や国民の反感は抑えられます」
「確かに・・・」とチャールズは言った
チャールズは俺の『補助金でお金をばらまく作戦』をまんざらでもないと思っているようだ。
<続く>
俺は国民へのアンケート調査の結果と今後の対応策を説明するため家族会議を招集した。
参加者はジャービス国王と兄3人と俺だ。
俺は参加者に為替レートに関するアンケート結果(図表7-4)を配り、内容を説明した。
【図表7-4:為替レートに関するアンケート結果(再掲)】
まず、小売業はジャービス・ドル高(為替レートが下がる)を希望している。輸入品の仕入価格が上がっており、ジャービス・ドル安が小売業の収益を圧迫しているからだ。
逆に農業関係者はジャービス・ドル安(為替レートが上がる)を希望している。ジャービス・ドル安になれば農作物の輸出価格が上がって、農業関係者の収益が増加するからだ。
その他の企業や個人は意見が割れている。ジャービス・ドル高(為替レートが下がる)の方が少し多いようだが、ジャービス・ドル安(為替レートが上がる)を希望する数と大きく違いはない。
つまり、業績が為替レートの影響を受ける小売業と農業関係者以外は、為替レートの変動について強い主張はないように思える。
内部告発ホットラインで実施した簡易な世論調査の結果について、俺が一通り説明したら、結果説明を聞いていた国王が言った。
「意外な結果だ。私が想像していたよりも、国民は『ジャービス・ドル高がいい』と思っているわけではないのだな」
「そうなんです。小売業と農業関係者はハッキリ意見が分かれます。為替レートが業績に直結しますから。その他は、個人も企業もどちらでもないようです」と俺は答えた。
「そうすると、どう対策すればいいと思う?」と国王は俺に聞いた。
「あくまで私見ですが・・・」
俺はそう言うと、事前に用意していた資料を家族会議の参加者に配った。
全員に資料を配った後、俺は話を続けた。
「私は、ジャービス・ドル安はジャービス王国の経済発展に大きく寄与すると思っています。だから、ジャービス・ドル安を使わない手はありません」
「ほう・・」と国王は言った。
とりあえず俺の話を聞いてみようと思っているらしい。
俺は家族会議の参加者に配った資料(図表7-12)を使って説明を始めた。
【図表7-12:金利差と為替レート(再掲)】
「まず、ジャービス・ドルの金利を引き下げて、ジャービス・ドル安を誘導します。さらに、政策金利を引き下げる前に米ドルを大量に、例えば1兆JD購入しておけば、金利引き下げ時に莫大な利益を捻出することができます」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「ダニーはいつも金儲けのことしか考えてないな・・・。それで、どれくらい利益が出るんだ?」とチャールズ(第2王子、内務大臣)が茶化して言った。
チャールズの言い方にイラっとしたが、俺は説明を続けた。
「ジャービス・ドル金利を1%に引き下げた場合、為替レートの理論値は1米ドル=170JDと想定しています」
「その理論値はどうやって計算したんだ?」とチャールズが言った。
「為替の10年フォワードレートを1米ドル=127JDとして、逆算して計算しています」と俺は答えた。
「へー、そんな方法があるんだ」
「2国間の経済環境が変わらなければ為替レートの長期的な水準は変わらないだろう、という仮定のもと計算しています。それとは別に、ヘッジファンドがジャービス・ドルを空売りしているようですから、短期的には理論値を超えて、1米ドル=190JDくらいまでジャービス・ドル安が進むと考えています」
「そうかもね」
「1米ドル=140JDで1兆JD分の米ドルを購入すれば約71億米ドル(=1兆JD÷140JD/米ドル)です。1米ドル=190JDの時に売却すれば、1兆3,571億JD(=約71億米ドル×190JD/米ドル)で売却できるので、利益は3,571億JD(=1兆3,571億JD-1兆JD)発生します」
「利回りは35%か。儲かるなー」とチャールズは呟いた。
「儲かりますね」
「でもさ、急激なジャービス・ドル安を誘導すると、企業や国民から文句が出ないか?」チャールズが俺に言った。
「出るかもしれませんね。でも、3,571億JDの利益が出ているわけですから、その利益を原資にして経済対策を実施することができます。もし、ジャービス・ドル安によって収益が悪化する企業や国民がいれば、個別に補助金を設定して支援すればいいでしょう。そうすれば、ジャービス王国の企業や国民の反感は抑えられます」
「確かに・・・」とチャールズは言った
チャールズは俺の『補助金でお金をばらまく作戦』をまんざらでもないと思っているようだ。
<続く>