第13話 会社からの相談(その1)
文字数 1,770文字
(13)会社からの相談
私たちがジャービット・エクスチェンジに再生計画を提案した翌日の朝、代理人弁護士のビルから連絡があった。
ビルが言うには、私の提案について会社から相談したいことがあるようだ。
私は『二択で選んでほしい』と言ったのだが、逆提案してくるつもりだろうか?
とりあえず会社からの相談内容を聞いてみないと、良いも悪いも判断できない。
今度は総務省に来てもらって、会社から話を聞くことにした。
i5が総務省の関連会社ということはジャービット・エクスチェンジにバレている。
だから、今さら隠す必要もないだろう。
ダニエルにジャービット・エクスチェンジが総務省に来ることを伝えたら、「ミーティングに参加するよ!」と言っていた。
アイツは面倒くさがりなのに、何にでも首を突っ込もうとする。
自分から面倒ごとを増やしていることに気付いていないのだろうか?
その日の午後に、ジャービット・エクスチェンジの役員3人と弁護士のビルが総務省にやってきた。
内部調査部で打合せすると狭いので、私は総務省の別の会議室に4人を案内した。
狭くはない、普通の会議室だ。
総務省の会議室は、内務省のような豪華さはない。事務的な会議机と椅子が置いてあるだけの質素な会議室だ。
無機質なところはジャービット・エクスチェンジの会議室と似ているが、総務省の方が少しマシだろう。
こちらの参加者は、私、ダニエル、ロイとポールだ。
ミーティングが始まると、ホセが話し始めた。
「実は相談があって参りました。御社から2つ提案していただきましたが、私たちは現状、提案1をベースに考えています」とホセは言った。
提案1はジャービットが投資有価証券を継続保有する案だ。
私は、現経営陣は提案2を選ぶだろうと思っていたから、この回答は意外だった。
<提案事項のサマリー>
==============
提案1:ジャービットの株式を既存株主からi5が1JDで買取る。その後、i5はジャービットに5億JDを出資する。
提案2:ジャービットの株式を既存株主から1億JDで買取る。その後、ジャービットは投資有価証券を既存株主(現経営陣)に1億JDで売却する。i5はジャービットに4億JDを出資する。
前提事項1:ジャービットの発行済株式100%をi5が取得。
前提事項2:ジャービットの純資産額を16億JDと評価。
その他:現経営陣の2年間の留任。
==============
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「え? 提案2ではなく、提案1ですか? 投資有価証券がジャービットに残りますよ?」私はホセに聞いた。
「そうです。既に投資済みの投資有価証券はジャービットに残したいと思っています」
「なるほど・・・」
そう言ったものの、私はホセの意図がよく理解できていない。
「投資有価証券をジャービットに残した上で、こちらからの相談事項は、ジャービットのベンチャー投資を継続してほしいのです」
「ジャービットの事業として、ベンチャー投資を続けたいということですか?」
「そうです。御社の目的がベンチャー投資でないことは理解していますから、御社からベンチャー企業への投資資金を出して欲しいわけではありません」
「はあ・・・」
予想外の提案だったので、私は何と答えてよいのか分からない。
「例えば、投資有価証券から今後回収する資金を、新しいベンチャー企業に投資できるようにしてもらえませんか?」とホセは言った。
私は少し混乱している。
ホセたちが提案2を選べば済む話だ。
自分たちが投資有価証券を保有していれば回収した資金は、自由に別のベンチャー企業に投資できる。
ホセたちは何がしたいのだろうか?
私はホセに意図を確認する。
「ちょっと私には趣旨が理解できないのですが・・・。提案2を選んで投資有価証券を取得すれば、回収資金を使って自由に投資できますよね? なぜ、提案1を選択するのですか?」
「まあ、普通に考えたらそうですよね。提案2の方がベンチャー企業に自由に投資できます・・・」
「ですよね?」
「それでも提案1を選択する理由は、御社で継続してベンチャー投資を続けてほしいからです」
― コイツは何を言ってるんだ?
私にはホセが言っている意味がよく分からない。
<続く>
私たちがジャービット・エクスチェンジに再生計画を提案した翌日の朝、代理人弁護士のビルから連絡があった。
ビルが言うには、私の提案について会社から相談したいことがあるようだ。
私は『二択で選んでほしい』と言ったのだが、逆提案してくるつもりだろうか?
とりあえず会社からの相談内容を聞いてみないと、良いも悪いも判断できない。
今度は総務省に来てもらって、会社から話を聞くことにした。
i5が総務省の関連会社ということはジャービット・エクスチェンジにバレている。
だから、今さら隠す必要もないだろう。
ダニエルにジャービット・エクスチェンジが総務省に来ることを伝えたら、「ミーティングに参加するよ!」と言っていた。
アイツは面倒くさがりなのに、何にでも首を突っ込もうとする。
自分から面倒ごとを増やしていることに気付いていないのだろうか?
その日の午後に、ジャービット・エクスチェンジの役員3人と弁護士のビルが総務省にやってきた。
内部調査部で打合せすると狭いので、私は総務省の別の会議室に4人を案内した。
狭くはない、普通の会議室だ。
総務省の会議室は、内務省のような豪華さはない。事務的な会議机と椅子が置いてあるだけの質素な会議室だ。
無機質なところはジャービット・エクスチェンジの会議室と似ているが、総務省の方が少しマシだろう。
こちらの参加者は、私、ダニエル、ロイとポールだ。
ミーティングが始まると、ホセが話し始めた。
「実は相談があって参りました。御社から2つ提案していただきましたが、私たちは現状、提案1をベースに考えています」とホセは言った。
提案1はジャービットが投資有価証券を継続保有する案だ。
私は、現経営陣は提案2を選ぶだろうと思っていたから、この回答は意外だった。
<提案事項のサマリー>
==============
提案1:ジャービットの株式を既存株主からi5が1JDで買取る。その後、i5はジャービットに5億JDを出資する。
提案2:ジャービットの株式を既存株主から1億JDで買取る。その後、ジャービットは投資有価証券を既存株主(現経営陣)に1億JDで売却する。i5はジャービットに4億JDを出資する。
前提事項1:ジャービットの発行済株式100%をi5が取得。
前提事項2:ジャービットの純資産額を16億JDと評価。
その他:現経営陣の2年間の留任。
==============
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「え? 提案2ではなく、提案1ですか? 投資有価証券がジャービットに残りますよ?」私はホセに聞いた。
「そうです。既に投資済みの投資有価証券はジャービットに残したいと思っています」
「なるほど・・・」
そう言ったものの、私はホセの意図がよく理解できていない。
「投資有価証券をジャービットに残した上で、こちらからの相談事項は、ジャービットのベンチャー投資を継続してほしいのです」
「ジャービットの事業として、ベンチャー投資を続けたいということですか?」
「そうです。御社の目的がベンチャー投資でないことは理解していますから、御社からベンチャー企業への投資資金を出して欲しいわけではありません」
「はあ・・・」
予想外の提案だったので、私は何と答えてよいのか分からない。
「例えば、投資有価証券から今後回収する資金を、新しいベンチャー企業に投資できるようにしてもらえませんか?」とホセは言った。
私は少し混乱している。
ホセたちが提案2を選べば済む話だ。
自分たちが投資有価証券を保有していれば回収した資金は、自由に別のベンチャー企業に投資できる。
ホセたちは何がしたいのだろうか?
私はホセに意図を確認する。
「ちょっと私には趣旨が理解できないのですが・・・。提案2を選んで投資有価証券を取得すれば、回収資金を使って自由に投資できますよね? なぜ、提案1を選択するのですか?」
「まあ、普通に考えたらそうですよね。提案2の方がベンチャー企業に自由に投資できます・・・」
「ですよね?」
「それでも提案1を選択する理由は、御社で継続してベンチャー投資を続けてほしいからです」
― コイツは何を言ってるんだ?
私にはホセが言っている意味がよく分からない。
<続く>