第3話 ダウラファンド(その2)
文字数 2,215文字
(3) ダウラファンド <続き>
俺はルイーズとスミスに指示して、過去の大量保有報告書からダウラファンドの投資スキームをできる限り把握しようとした。でも、完全に把握することはできなかった。
理由は、ダウラアセットマネジメントが株式投資を行う際のファンドはいわゆるマザーファンドで、出資者が出資しているベビーファンドは別にあるからだ。
ダウラアセットマネジメントが複雑なスキームを使うのは幾つかの理由がある。ここでは理由を2つ説明しよう。
まずは税制上の理由だ。投資ファンドの運用会社には『ファンドの段階で課税関係を発生させてはいけない』という絶対的なルールがある。投資家が配当を受け取った際にも課税される二重課税を避けるためだ。
運用会社は投資家に二重課税が発生させないために、適切な投資スキームを選択する必要があり、運用会社が用意すべき投資ファンドのスキームは投資家によって異なる。
次に、投資家がそのファンドに出資していることを外部に知られたくない場合だ。普通の投資家であれば、アクティビストファンドに出資していることは知られたくない。
世間一般ではアクティビストは『上場会社に無理難題を言って稼ぐハイエナのような連中』と思われている節がある。そのアクティビストに出資していることが外部に知られたら、投資家のレピュテーション(風評)は著しく下がるだろう。
運用会社は投資家のレピュテーションを守るために、投資スキームを選択して運用する必要がある。
話を戻すと、投資家が出資するファンドをベビーファンドという。ベビーファンドの資金を集めて運用するファンドをマザーファンドという。ベビーファンドとマザーファンドを合わせてファミリーファンドという。
一般的なマザーファンドとベビーファンドの関係は図表6-6のようなイメージだ。
【図表6-6:マザーファンドとベビーファンドの関係】
このスキームでは、投資家はベビーファンド(ファンドA~C)に出資し、そのベビーファンドが実際に株式を売買するマザーファンド(アクティビストファンド、買収ファンド)に投資する。大量保有報告書などを提出している上場会社の株式を保有するダウラファンドはマザーファンドだ。
ダウラアセットマネジメントの顧客(投資家)はマザーファンドに直接投資していないから、投資家の情報は開示されない。場合によっては、投資家にたどり着くまで幾つものファンドを経由するため、外部から正確に実態を把握することが難しい。
ここで、もう一つ例を出して説明してみよう。
例えば、ダウラアセットマネジメントが全世界でアクティビストファンドと買収ファンドを運用していたとしよう(図表6-7)。
投資家A~Cはベビーファンド(ファンドA~C)に出資し、ベビーファンドは全世界を対象としたグローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドに投資する(この2つのファンドは現物投資を行えるのでマザーファンドに該当する)。
全世界を対象とした2つのファンドは、全世界から投資対象を探すことになるのだが、全世界の株式市場をファンドマネージャーが把握できるわけがない。
この場合は、投資対象国を絞ってその国で同じようなコンセプト(投資戦略)で運用されているファンドに投資した方が効率的だ。
ジャービス王国にアクティビストファンドと買収ファンドがあれば、運用会社は全世界ファンドの資金を、ジャービス王国に特化したファンドに投資する。
このような形態をファンド・オブ・ファンド(Fund of Funds:FoF)という。
※FoFは運用会社が異なる場合(例えば、ブラックロックがインベスコのファンドに投資している場合)に使う用語です。同じ運用会社が運用しているファンド間ではFoFという用語はあまり使いません。
なお、全世界ファンドは別のファンドに投資しているからFoFに該当する。
一方、ジャービス・アクティビストファンドとジャービス・買収ファンドの投資対象は株式なので普通の株式ファンドだ。FoFではない。
【図表6-7:ファンド・オブ・ファンズの仕組み】
図表6-7の場合、ジャービス王国の上場会社株式を保有しているのはジャービス・アクティビストファンドとジャービス・買収ファンドで、その出資者はグローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドだ。
グローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドの出資者はベビーファンド(ファンドA~C)。
ベビーファンドの出資者は投資家A~Cだ。
ここまでくると、投資家A~Cの情報はどこにも開示されない。
一般的なファミリーファンド(マザーファンドとベビーファンド)の間に1つファンドが入っただけで、投資家を追うのが大変なのがイメージできるのではないだろうか。
長々と説明したが、俺が言いたいことは、ファンド運用会社は複雑なファンド間の資金の流れを作るため、外部から正確に実態を把握することが難しい、ということだ。
ルイーズとスミスが何時間も掛かってダウラファンドの投資スキームを解明しようとしたが、公表資料から分かったのはここまで(図表6-8)だ。
【図表6-8:ダウラファンドの概要】
ルイーズには「無駄な作業させやがって」とキレられたが、いつものことだ。
とてもこれでは投資家には辿り着けそうにない。
困った・・・
<続く>
俺はルイーズとスミスに指示して、過去の大量保有報告書からダウラファンドの投資スキームをできる限り把握しようとした。でも、完全に把握することはできなかった。
理由は、ダウラアセットマネジメントが株式投資を行う際のファンドはいわゆるマザーファンドで、出資者が出資しているベビーファンドは別にあるからだ。
ダウラアセットマネジメントが複雑なスキームを使うのは幾つかの理由がある。ここでは理由を2つ説明しよう。
まずは税制上の理由だ。投資ファンドの運用会社には『ファンドの段階で課税関係を発生させてはいけない』という絶対的なルールがある。投資家が配当を受け取った際にも課税される二重課税を避けるためだ。
運用会社は投資家に二重課税が発生させないために、適切な投資スキームを選択する必要があり、運用会社が用意すべき投資ファンドのスキームは投資家によって異なる。
次に、投資家がそのファンドに出資していることを外部に知られたくない場合だ。普通の投資家であれば、アクティビストファンドに出資していることは知られたくない。
世間一般ではアクティビストは『上場会社に無理難題を言って稼ぐハイエナのような連中』と思われている節がある。そのアクティビストに出資していることが外部に知られたら、投資家のレピュテーション(風評)は著しく下がるだろう。
運用会社は投資家のレピュテーションを守るために、投資スキームを選択して運用する必要がある。
話を戻すと、投資家が出資するファンドをベビーファンドという。ベビーファンドの資金を集めて運用するファンドをマザーファンドという。ベビーファンドとマザーファンドを合わせてファミリーファンドという。
一般的なマザーファンドとベビーファンドの関係は図表6-6のようなイメージだ。
【図表6-6:マザーファンドとベビーファンドの関係】
このスキームでは、投資家はベビーファンド(ファンドA~C)に出資し、そのベビーファンドが実際に株式を売買するマザーファンド(アクティビストファンド、買収ファンド)に投資する。大量保有報告書などを提出している上場会社の株式を保有するダウラファンドはマザーファンドだ。
ダウラアセットマネジメントの顧客(投資家)はマザーファンドに直接投資していないから、投資家の情報は開示されない。場合によっては、投資家にたどり着くまで幾つものファンドを経由するため、外部から正確に実態を把握することが難しい。
ここで、もう一つ例を出して説明してみよう。
例えば、ダウラアセットマネジメントが全世界でアクティビストファンドと買収ファンドを運用していたとしよう(図表6-7)。
投資家A~Cはベビーファンド(ファンドA~C)に出資し、ベビーファンドは全世界を対象としたグローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドに投資する(この2つのファンドは現物投資を行えるのでマザーファンドに該当する)。
全世界を対象とした2つのファンドは、全世界から投資対象を探すことになるのだが、全世界の株式市場をファンドマネージャーが把握できるわけがない。
この場合は、投資対象国を絞ってその国で同じようなコンセプト(投資戦略)で運用されているファンドに投資した方が効率的だ。
ジャービス王国にアクティビストファンドと買収ファンドがあれば、運用会社は全世界ファンドの資金を、ジャービス王国に特化したファンドに投資する。
このような形態をファンド・オブ・ファンド(Fund of Funds:FoF)という。
※FoFは運用会社が異なる場合(例えば、ブラックロックがインベスコのファンドに投資している場合)に使う用語です。同じ運用会社が運用しているファンド間ではFoFという用語はあまり使いません。
なお、全世界ファンドは別のファンドに投資しているからFoFに該当する。
一方、ジャービス・アクティビストファンドとジャービス・買収ファンドの投資対象は株式なので普通の株式ファンドだ。FoFではない。
【図表6-7:ファンド・オブ・ファンズの仕組み】
図表6-7の場合、ジャービス王国の上場会社株式を保有しているのはジャービス・アクティビストファンドとジャービス・買収ファンドで、その出資者はグローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドだ。
グローバル・アクティビストファンドとグローバル・買収ファンドの出資者はベビーファンド(ファンドA~C)。
ベビーファンドの出資者は投資家A~Cだ。
ここまでくると、投資家A~Cの情報はどこにも開示されない。
一般的なファミリーファンド(マザーファンドとベビーファンド)の間に1つファンドが入っただけで、投資家を追うのが大変なのがイメージできるのではないだろうか。
長々と説明したが、俺が言いたいことは、ファンド運用会社は複雑なファンド間の資金の流れを作るため、外部から正確に実態を把握することが難しい、ということだ。
ルイーズとスミスが何時間も掛かってダウラファンドの投資スキームを解明しようとしたが、公表資料から分かったのはここまで(図表6-8)だ。
【図表6-8:ダウラファンドの概要】
ルイーズには「無駄な作業させやがって」とキレられたが、いつものことだ。
とてもこれでは投資家には辿り着けそうにない。
困った・・・
<続く>