第1話 ジョーダンの逃亡(その1)
文字数 1,750文字
俺の名前はダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。
俺はジャービス王国で起こった事件を解決するために探偵をしている。
すでに読んでいる皆様にはしつこいようだが、本当は内部調査部の部長。探偵の方がやる気が出るから、そういう設定(探偵)にしている。すべて俺の妄想だ。
ちなみに、探偵といっても俺は名探偵ではない。そして、俺は名探偵を目指していない。
これは俺に向上心がないからではなく、ある筋から重要事実を聞いたからだ。
―― 名探偵では事件は解決できないらしい・・・
だから、俺は調査のスペシャリストとして探偵業務を全うしようと思っている。
(1)財務コンサルタント ジョーダンの逃亡
俺が内部調査部に入ったら、ミゲルが嬉しそうに俺に話しかけてきた。ミゲルのこの表情は何かゴシップ的な話をする時の顔だ。正直言って相手にするのは面倒くさいのだが、無視するとおじさんは拗(す)ねる。
だから「どうしたの?」と俺はミゲルに聞いた。
「半年前に逮捕された伝説の財務コンサルタント。知ってますよね?」
「知ってるよ。ジョーダンだよね」
※ジョーダンは経営破綻の危機にあったジャービス国内銀行に損失隠しをするための金融商品を販売していました。詳しくは『第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ』をご覧下さい。
「ジャービス王国から逃亡したらしいです!」
「え? 海外に逃げたの? 裁判中じゃなかった?」
「ええ、刑事裁判の途中でした。ジョーダンは一時保釈中だったようですが、プライベート・ジェットで逃げたらしいです」
「裁判中だから出国できないよね?」
「その通りです。プライベート・ジェットの荷物に隠れて機内に乗り込んだらしいです」
「まじで? ひょっとして、楽器のケースに隠れた?」
「ええ、あの有名な逃亡劇を模倣したらしいですね。ジャービス王国のプライベート・ジェットの保安検査がザルなのを知っていて、ジョーダンはそこを利用したようです」
「へー、すごいなー」
世間を騒がせた伝説の財務コンサルタントのジョーダン。この逃亡劇は数時間前に起こったようだ。俺がネットニュースを検索するとジョーダンの海外逃亡の記事がいくつも出てきた。
俺とミゲルがジョーダンの海外逃走劇の話をしていたら、ルイーズが部屋に入ってきた。小走りで入ってきたから急ぎのようだ。
「大変よ。ジョーダンが逃亡した!」
「ああ、そうみたいだね。いま、ミゲルから聞いたよ」
「あ、そうなの。そのジョーダンがまたジャービス王国で新しい詐欺をしているらしいの」
「新しい詐欺? でも、本人はジャービス国内にいないよね」
「そう。ジョーダンは息子に指示を出して詐欺をしている」
「ジョーダンの息子が詐欺を?」
「本人がジャービス王国に入国できないでしょ。だから、海外から息子に指示して詐欺をしているらしい」
「へー、そういうことか。特殊詐欺グループみたいだな・・・」
「ジョーダンの息子の名前はマイケル」
「マイケルとジョーダンか・・・。有名なバスケットボール選手みたいだね」
横で聞いていたミゲルが「その話、聞いたことあります!」と言った。
「どういう話?」と俺はミゲルに聞いた。
「ジョーダンが彼のファンだったのは、スニーカーのコレクターの間では有名な話です。ジョーダンは1が発売された1985年からの熱狂的なコレクターで、稼いだ金でプレミアの付いたスニーカーをオークションで大量に落札していました。スニーカーのコレクターの間でも、ジョーダンのコレクションはすごいと有名なんです」
「へー、ジョーダンはコレクターの間でも有名なんだ」
俺とミゲルがマイケル・ジョーダンの雑談を延々と続けそうなのに気付いたルイーズ。
俺たちの雑談に割って入った。
「話の腰を折って悪いんだけどさ、ジョーダンはジャービス国内の上場企業をターゲットにした詐欺を開始した」
「上場企業か・・・。ちなみに、どういう詐欺?」
「正式名称ではないけど、業界ではSDGs詐欺と呼ばれているみたいね」
「SDGs詐欺?」
※SDGsはSustainable Development Goalsの略で、日本語では持続可能な開発目標と訳されています。
たしかに詐欺師が寄ってきそうなキーワードではあるな・・・
俺はそう思った。
<続く>
俺はジャービス王国で起こった事件を解決するために探偵をしている。
すでに読んでいる皆様にはしつこいようだが、本当は内部調査部の部長。探偵の方がやる気が出るから、そういう設定(探偵)にしている。すべて俺の妄想だ。
ちなみに、探偵といっても俺は名探偵ではない。そして、俺は名探偵を目指していない。
これは俺に向上心がないからではなく、ある筋から重要事実を聞いたからだ。
―― 名探偵では事件は解決できないらしい・・・
だから、俺は調査のスペシャリストとして探偵業務を全うしようと思っている。
(1)財務コンサルタント ジョーダンの逃亡
俺が内部調査部に入ったら、ミゲルが嬉しそうに俺に話しかけてきた。ミゲルのこの表情は何かゴシップ的な話をする時の顔だ。正直言って相手にするのは面倒くさいのだが、無視するとおじさんは拗(す)ねる。
だから「どうしたの?」と俺はミゲルに聞いた。
「半年前に逮捕された伝説の財務コンサルタント。知ってますよね?」
「知ってるよ。ジョーダンだよね」
※ジョーダンは経営破綻の危機にあったジャービス国内銀行に損失隠しをするための金融商品を販売していました。詳しくは『第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ』をご覧下さい。
「ジャービス王国から逃亡したらしいです!」
「え? 海外に逃げたの? 裁判中じゃなかった?」
「ええ、刑事裁判の途中でした。ジョーダンは一時保釈中だったようですが、プライベート・ジェットで逃げたらしいです」
「裁判中だから出国できないよね?」
「その通りです。プライベート・ジェットの荷物に隠れて機内に乗り込んだらしいです」
「まじで? ひょっとして、楽器のケースに隠れた?」
「ええ、あの有名な逃亡劇を模倣したらしいですね。ジャービス王国のプライベート・ジェットの保安検査がザルなのを知っていて、ジョーダンはそこを利用したようです」
「へー、すごいなー」
世間を騒がせた伝説の財務コンサルタントのジョーダン。この逃亡劇は数時間前に起こったようだ。俺がネットニュースを検索するとジョーダンの海外逃亡の記事がいくつも出てきた。
俺とミゲルがジョーダンの海外逃走劇の話をしていたら、ルイーズが部屋に入ってきた。小走りで入ってきたから急ぎのようだ。
「大変よ。ジョーダンが逃亡した!」
「ああ、そうみたいだね。いま、ミゲルから聞いたよ」
「あ、そうなの。そのジョーダンがまたジャービス王国で新しい詐欺をしているらしいの」
「新しい詐欺? でも、本人はジャービス国内にいないよね」
「そう。ジョーダンは息子に指示を出して詐欺をしている」
「ジョーダンの息子が詐欺を?」
「本人がジャービス王国に入国できないでしょ。だから、海外から息子に指示して詐欺をしているらしい」
「へー、そういうことか。特殊詐欺グループみたいだな・・・」
「ジョーダンの息子の名前はマイケル」
「マイケルとジョーダンか・・・。有名なバスケットボール選手みたいだね」
横で聞いていたミゲルが「その話、聞いたことあります!」と言った。
「どういう話?」と俺はミゲルに聞いた。
「ジョーダンが彼のファンだったのは、スニーカーのコレクターの間では有名な話です。ジョーダンは1が発売された1985年からの熱狂的なコレクターで、稼いだ金でプレミアの付いたスニーカーをオークションで大量に落札していました。スニーカーのコレクターの間でも、ジョーダンのコレクションはすごいと有名なんです」
「へー、ジョーダンはコレクターの間でも有名なんだ」
俺とミゲルがマイケル・ジョーダンの雑談を延々と続けそうなのに気付いたルイーズ。
俺たちの雑談に割って入った。
「話の腰を折って悪いんだけどさ、ジョーダンはジャービス国内の上場企業をターゲットにした詐欺を開始した」
「上場企業か・・・。ちなみに、どういう詐欺?」
「正式名称ではないけど、業界ではSDGs詐欺と呼ばれているみたいね」
「SDGs詐欺?」
※SDGsはSustainable Development Goalsの略で、日本語では持続可能な開発目標と訳されています。
たしかに詐欺師が寄ってきそうなキーワードではあるな・・・
俺はそう思った。
<続く>