第8話 国内世論との戦い(その6)
文字数 1,973文字
(8)国内世論との戦い <続き>
俺たちは政策金利の引き上げが公表される前に、⑧1兆JD分の米ドルを空売り(ショート)することにした。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
ジャービス・ドルの金利が引き上げられると、ジャービス・ドルの価値は他通貨と比べて相対的に高くなる。
現在の為替レートは1米ドル=175JDだが、俺は政策金利の引き上げで1米ドル=120JDまでジャービス・ドル高になると予想している。
利上げ前に空売りしておけば、単純計算で55JD/米ドル儲かるはずだ。
俺たちはホラント証券経由で1兆JD分の米ドル、すなわち57.14億米ドル(=1兆JD÷175JD/米ドル)を売却した。外為証拠金はジャービス国債の売却で確保した3,568億JDを使用した。
***
俺たちが米ドルを空売りしてから2週間後に内務省から⑨政策金利の4%への引き上げが公表された。この政策金利の引き上げにより、ジャービス国債の10年金利が1%から4%に上昇した。
ジャービス・ドル金利の上昇はジャービス・ドル高(為替レートの低下)を誘導する。
空売りをしていたヘッジファンドは、収益悪化を恐れてジャービス・ドルを買戻した(米ドルを売却した)。
ジャービス国内の投資家も為替レートの低下によって米ドルの価値が下がったことから、ロスカットによる米ドルの売却が大量に発生した。
※ロスカットとは、為替取引で損失が発生した場合に、さらなる損失の拡大を防ぐため保有ポジションを強制的に決済(売却や買戻し)することをいいます。
この結果、俺たちの予想よりもはるかにジャービス・ドル高(為替レートの低下)が進行し、1米ドル=100JDを付けた。
俺たちは1米ドル=100JD のタイミングで⑩空売りしていた57.14億米ドルを5,714億JDで買い戻した。
米ドルの購入額は大きかったが、ヘッジファンドと国内投資家が米ドルを売っていたから、問題なく執行できた。
結果的に、米ドルの空売りと買戻しによる損益は4,286億JD(=1兆JD-5,714億JD)となった。
俺たちは米ドルの空売りで国家予算4年分を稼ぐことができた。
ジャービス政府関係者は全員こう思ったはずだ。
―― また儲かった!
合法的なインサイダー取引が儲かることを、俺は改めて実感した。
***
次に、ジャービス中央銀行から債券貸借取引で借りている国債を返却するため、俺たちは⑪額面3,000億JD の10年国債を米銀から買い戻すことにした。
国債の購入代金は、外為証拠金にしていた3,568億JDを使えばいい。
買戻し対象の10年国債は金利3%だが、割引率(市場金利)は4%なので買戻し価格は額面よりも低くなる(具体的には額面の91.9%で国債を買い戻す(図表7-14))。
【図表7-14:国債の評価(割引率4%の場合)(再掲)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
俺たちは買い戻し条件付き売買をしていた米銀から、額面3,000億JDの国債を2,757億JD(=3,000億JD×91.9%)で買戻した。
額面3,000億JDの国債をジャービス・ドル金利1%の時に3,568億JDで売却、ジャービス・ドル金利4%の時に2,757億JDで買戻したから、利益は811億JD(=3,568億JD-2,757億JD)だ。
ちなみに、米銀は国債を2,757億JD で売却したものの、1米ドル=100JDのジャービス・ドル高になっていたから、米ドル・ベースでは27.6億米ドル(=2,757億JD÷100JD/米ドル)だ。
米銀が国債を買取ったのは1米ドル=195JDの時だから、18.3億米ドル(=3,568億JD÷190JD/米ドル)で購入している。
米銀は俺たちとの取引で9.3億米ドル(=27.6億米ドル-18.3億米ドル)儲かったことになる。
俺たちも米銀も儲かったから、非常にいい取引だったと言えるだろう。
俺たちは買い戻した額面3,000億JDの国債をジャービス中央銀行に返した。
ジャービス中央銀行に国債を返却したことを連絡すると、総裁のアドルフは喜んでいた。
―― そんなに信用されてなかったんだろうか?
俺は複雑な心境だった。
***
総括すると、俺たちは為替対応の一連の取引で8,733億JDの利益を稼ぎ出した(図表7-17)。
内訳は政策金利の引下げ時の米ドル売買から3,636億JD、政策金利の引上げ時の米ドル売買から4,286億JD、国債の売買から811億JDだ。
【図表7-17:一連の取引におけるi6の損益】
ジャービス政府は歓喜に包まれていた。
またマスコミが騒ぎ出すまでは・・・
<続く>
俺たちは政策金利の引き上げが公表される前に、⑧1兆JD分の米ドルを空売り(ショート)することにした。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
ジャービス・ドルの金利が引き上げられると、ジャービス・ドルの価値は他通貨と比べて相対的に高くなる。
現在の為替レートは1米ドル=175JDだが、俺は政策金利の引き上げで1米ドル=120JDまでジャービス・ドル高になると予想している。
利上げ前に空売りしておけば、単純計算で55JD/米ドル儲かるはずだ。
俺たちはホラント証券経由で1兆JD分の米ドル、すなわち57.14億米ドル(=1兆JD÷175JD/米ドル)を売却した。外為証拠金はジャービス国債の売却で確保した3,568億JDを使用した。
***
俺たちが米ドルを空売りしてから2週間後に内務省から⑨政策金利の4%への引き上げが公表された。この政策金利の引き上げにより、ジャービス国債の10年金利が1%から4%に上昇した。
ジャービス・ドル金利の上昇はジャービス・ドル高(為替レートの低下)を誘導する。
空売りをしていたヘッジファンドは、収益悪化を恐れてジャービス・ドルを買戻した(米ドルを売却した)。
ジャービス国内の投資家も為替レートの低下によって米ドルの価値が下がったことから、ロスカットによる米ドルの売却が大量に発生した。
※ロスカットとは、為替取引で損失が発生した場合に、さらなる損失の拡大を防ぐため保有ポジションを強制的に決済(売却や買戻し)することをいいます。
この結果、俺たちの予想よりもはるかにジャービス・ドル高(為替レートの低下)が進行し、1米ドル=100JDを付けた。
俺たちは1米ドル=100JD のタイミングで⑩空売りしていた57.14億米ドルを5,714億JDで買い戻した。
米ドルの購入額は大きかったが、ヘッジファンドと国内投資家が米ドルを売っていたから、問題なく執行できた。
結果的に、米ドルの空売りと買戻しによる損益は4,286億JD(=1兆JD-5,714億JD)となった。
俺たちは米ドルの空売りで国家予算4年分を稼ぐことができた。
ジャービス政府関係者は全員こう思ったはずだ。
―― また儲かった!
合法的なインサイダー取引が儲かることを、俺は改めて実感した。
***
次に、ジャービス中央銀行から債券貸借取引で借りている国債を返却するため、俺たちは⑪額面3,000億JD の10年国債を米銀から買い戻すことにした。
国債の購入代金は、外為証拠金にしていた3,568億JDを使えばいい。
買戻し対象の10年国債は金利3%だが、割引率(市場金利)は4%なので買戻し価格は額面よりも低くなる(具体的には額面の91.9%で国債を買い戻す(図表7-14))。
【図表7-14:国債の評価(割引率4%の場合)(再掲)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
俺たちは買い戻し条件付き売買をしていた米銀から、額面3,000億JDの国債を2,757億JD(=3,000億JD×91.9%)で買戻した。
額面3,000億JDの国債をジャービス・ドル金利1%の時に3,568億JDで売却、ジャービス・ドル金利4%の時に2,757億JDで買戻したから、利益は811億JD(=3,568億JD-2,757億JD)だ。
ちなみに、米銀は国債を2,757億JD で売却したものの、1米ドル=100JDのジャービス・ドル高になっていたから、米ドル・ベースでは27.6億米ドル(=2,757億JD÷100JD/米ドル)だ。
米銀が国債を買取ったのは1米ドル=195JDの時だから、18.3億米ドル(=3,568億JD÷190JD/米ドル)で購入している。
米銀は俺たちとの取引で9.3億米ドル(=27.6億米ドル-18.3億米ドル)儲かったことになる。
俺たちも米銀も儲かったから、非常にいい取引だったと言えるだろう。
俺たちは買い戻した額面3,000億JDの国債をジャービス中央銀行に返した。
ジャービス中央銀行に国債を返却したことを連絡すると、総裁のアドルフは喜んでいた。
―― そんなに信用されてなかったんだろうか?
俺は複雑な心境だった。
***
総括すると、俺たちは為替対応の一連の取引で8,733億JDの利益を稼ぎ出した(図表7-17)。
内訳は政策金利の引下げ時の米ドル売買から3,636億JD、政策金利の引上げ時の米ドル売買から4,286億JD、国債の売買から811億JDだ。
【図表7-17:一連の取引におけるi6の損益】
ジャービス政府は歓喜に包まれていた。
またマスコミが騒ぎ出すまでは・・・
<続く>