第1話 マイケルの逃亡(その1)
文字数 1,930文字
俺の名前はダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。
俺はジャービス王国で起こった事件を解決するために探偵をしている。
すでに読んでいる皆様にはしつこいようだが、本当は内部調査部の部長だ。
探偵の方がやる気が出るから、自分の中でそういう設定にしている。
そして、俺は名探偵ではないし、名探偵を目指してもいない。
調査のスペシャリストとして探偵業務を全うしようと思っている。
(1)マイケルの逃亡
俺が総務省の執務室で雑務をこなしていると、ミゲルとジョルジュのおじさんコンビがやってきた。ジョーダンの逮捕以降、二人は仲が良い。数十年来の親友のようだ。
執務室に入ってきたミゲルは真面目な顔をしている。ミゲルはいつもヘラヘラしているから、何か事件があったのだろうと俺は推測した。
そう考えた俺は、「どうしたの?」と二人に聞いた。
「マイケルが逃走したんです!」とミゲルが言った。
「マイケルって、ジョーダンの息子のことかな?」
「そうです。そのマイケルです!」
「父親に続いて、息子も逃げたのか・・・」
「息子もたくましい奴です!」
「ちょっと確認なんだけど」
「何でしょうか?」
「ジョーダンが逮捕されたのは新聞で読んで知っていた。息子のマイケルも逮捕されていたの?」
「ええ。マイケルはジョーダンの海外逃亡を手伝った罪で、警察に拘留されていました。拘留された留置所で、看守を金銭で買収したようです」
「へー。看守を買収か・・・」
「汚職が蔓延していますね」
「ジャービス王国の汚職の話をすると長くなるから、後にしよう・・・。それで、マイケルもプライベートジェットで海外に逃げたの?」
「いえ。まだ、マイケルはジャービス王国内にいるはずです。プライベートジェットの検査がザルだったのは、前回のジョーダンの件で明らかになりました。今は警察の指導で検査体制が改善されていますから、同じ手は使えません」
「そうか。じゃあ、マイケルは国内に潜伏してるんだ」
「警察はそう考えています。それで、ジョルジュからマイケル再逮捕のための捜査協力の依頼がありました。内部調査部の調査も落ち着いていますし、警察の捜査を手伝ってもいいですか?」
「いいけど、今度は何のオークションなの?」
「それは内緒です。機密事項ですから・・・」
「あっ、そう。じゃあ、頑張って」
俺がそう言うと、ミゲルは「頑張ってきます!」と言ってジョルジュと執務室を出ていった。
―― あいつら、仲いいな・・・
友達のいない俺は少し羨ましく思う。だが同時に、あの中(おじさんコンビ)には入りたくはないと強く思っている。
***
俺が内部調査部の部屋に入ったら、ルイーズが「ちょっといい?」と俺に話しかけてきた。
今日のルイーズは機嫌が悪くなさそうだ。ちなみに機嫌が良いわけでもない。良くも悪くもなく普通、という意味だ。
ほとんど表情に変化のないルイーズだが、中学生からの付き合いの俺は何となくその辺が分かる。
「どうしたの?」と俺はルイーズに尋ねた。
「内部告発ホットラインに情報提供がきたの。けど、何件か同じような告発内容なんだ」
「具体的にはどういう内容?」
俺がそう言うと、ルイーズは内部告発ホットラインのプリントアウトを俺に見せた。
=============
私はコンドミニアムを所有していて、戸建て住宅への住み替えを検討しています。ちなみに、私の所有するコンドミニアムは借地権付建物です。『コンドミニアムを売却するためには地主の承諾が必要』と不動産会社に言われたので地主に譲渡承諾を依頼しました。
しかし、地主からは『譲渡承諾はしない』と言われ、その代わりに底地を法外な金額で買取るように言われました。コンドミニアムの他の所有者に聞いたところ、地主から私と同じような対応をされた人が他にも何人かいるようでした。
地主が譲渡承諾をしないのも納得できませんが、それよりも、法外な金額でしか底地を譲渡しないと地主が主張してくることに納得できません。このような理不尽な対応が許されていいのでしょうか?
本来の不正調査の趣旨とは違うと思いますが、一度、調査をお願いします。
=============
「へー、借地権で底地権者と借地権者が揉めてるんだ」
「そうみたいね。内部告発ホットラインには他に5件似たような情報提供があった」
「全部で6件か。それって同じコンドミニアムかな?」
「同じコンドミニアムじゃない。でもね、地主は同じ会社」
「同じ地主?」
「ええ、MJって会社」
「それって、もしかして?」
「ダニエルもよく知ってる、マイケルとジョーダンね」
―― なんて面倒な親子だ・・・
奴らはいろんなところに爪痕を残していく。
こうして今回の事件は幕を開けた。
<続く>
俺はジャービス王国で起こった事件を解決するために探偵をしている。
すでに読んでいる皆様にはしつこいようだが、本当は内部調査部の部長だ。
探偵の方がやる気が出るから、自分の中でそういう設定にしている。
そして、俺は名探偵ではないし、名探偵を目指してもいない。
調査のスペシャリストとして探偵業務を全うしようと思っている。
(1)マイケルの逃亡
俺が総務省の執務室で雑務をこなしていると、ミゲルとジョルジュのおじさんコンビがやってきた。ジョーダンの逮捕以降、二人は仲が良い。数十年来の親友のようだ。
執務室に入ってきたミゲルは真面目な顔をしている。ミゲルはいつもヘラヘラしているから、何か事件があったのだろうと俺は推測した。
そう考えた俺は、「どうしたの?」と二人に聞いた。
「マイケルが逃走したんです!」とミゲルが言った。
「マイケルって、ジョーダンの息子のことかな?」
「そうです。そのマイケルです!」
「父親に続いて、息子も逃げたのか・・・」
「息子もたくましい奴です!」
「ちょっと確認なんだけど」
「何でしょうか?」
「ジョーダンが逮捕されたのは新聞で読んで知っていた。息子のマイケルも逮捕されていたの?」
「ええ。マイケルはジョーダンの海外逃亡を手伝った罪で、警察に拘留されていました。拘留された留置所で、看守を金銭で買収したようです」
「へー。看守を買収か・・・」
「汚職が蔓延していますね」
「ジャービス王国の汚職の話をすると長くなるから、後にしよう・・・。それで、マイケルもプライベートジェットで海外に逃げたの?」
「いえ。まだ、マイケルはジャービス王国内にいるはずです。プライベートジェットの検査がザルだったのは、前回のジョーダンの件で明らかになりました。今は警察の指導で検査体制が改善されていますから、同じ手は使えません」
「そうか。じゃあ、マイケルは国内に潜伏してるんだ」
「警察はそう考えています。それで、ジョルジュからマイケル再逮捕のための捜査協力の依頼がありました。内部調査部の調査も落ち着いていますし、警察の捜査を手伝ってもいいですか?」
「いいけど、今度は何のオークションなの?」
「それは内緒です。機密事項ですから・・・」
「あっ、そう。じゃあ、頑張って」
俺がそう言うと、ミゲルは「頑張ってきます!」と言ってジョルジュと執務室を出ていった。
―― あいつら、仲いいな・・・
友達のいない俺は少し羨ましく思う。だが同時に、あの中(おじさんコンビ)には入りたくはないと強く思っている。
***
俺が内部調査部の部屋に入ったら、ルイーズが「ちょっといい?」と俺に話しかけてきた。
今日のルイーズは機嫌が悪くなさそうだ。ちなみに機嫌が良いわけでもない。良くも悪くもなく普通、という意味だ。
ほとんど表情に変化のないルイーズだが、中学生からの付き合いの俺は何となくその辺が分かる。
「どうしたの?」と俺はルイーズに尋ねた。
「内部告発ホットラインに情報提供がきたの。けど、何件か同じような告発内容なんだ」
「具体的にはどういう内容?」
俺がそう言うと、ルイーズは内部告発ホットラインのプリントアウトを俺に見せた。
=============
私はコンドミニアムを所有していて、戸建て住宅への住み替えを検討しています。ちなみに、私の所有するコンドミニアムは借地権付建物です。『コンドミニアムを売却するためには地主の承諾が必要』と不動産会社に言われたので地主に譲渡承諾を依頼しました。
しかし、地主からは『譲渡承諾はしない』と言われ、その代わりに底地を法外な金額で買取るように言われました。コンドミニアムの他の所有者に聞いたところ、地主から私と同じような対応をされた人が他にも何人かいるようでした。
地主が譲渡承諾をしないのも納得できませんが、それよりも、法外な金額でしか底地を譲渡しないと地主が主張してくることに納得できません。このような理不尽な対応が許されていいのでしょうか?
本来の不正調査の趣旨とは違うと思いますが、一度、調査をお願いします。
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「へー、借地権で底地権者と借地権者が揉めてるんだ」
「そうみたいね。内部告発ホットラインには他に5件似たような情報提供があった」
「全部で6件か。それって同じコンドミニアムかな?」
「同じコンドミニアムじゃない。でもね、地主は同じ会社」
「同じ地主?」
「ええ、MJって会社」
「それって、もしかして?」
「ダニエルもよく知ってる、マイケルとジョーダンね」
―― なんて面倒な親子だ・・・
奴らはいろんなところに爪痕を残していく。
こうして今回の事件は幕を開けた。
<続く>