第4話 登記簿謄本を調べろ(その1)

文字数 1,332文字

(4) 登記簿謄本を調べろ

 内部調査部に戻った俺たちは、ウォルターから聞いた内容を他のメンバーに話した。

 不動産会社には偽造された後の書類だけが残っているはずだから、調査しても証拠が入手できるかは微妙だ。
 不動産会社に『顧客が勝手に書類を偽造した』開き直られたら、何も解決しない。個人投資家を不正融資の書類偽造で逮捕して、この事件は終了になってしまう。

 だから、不動産会社を調査する前に、不正融資の対象となった不動産、その所有者、融資した銀行などを調査しておく必要がある。
 かなり手間が掛かる作業だが、内部調査部のメンバーで手分けして調べようと俺は考えた。

 俺は内部調査部のメンバーに言った。

「情報提供者のウォルターが言うには、レンソイス不動産のLシリーズが、問題の不動産物件らしい。会社のホームページにLシリーズの所在地などの情報が出ていると思うけど、あるかな?」

「部長、ありました。レンソイス不動産のホームページに、過去の販売実績として紹介されています」とロイがスマートフォンを見ながら言った。

「じゃあ、所在地は分かるわけだ。面倒だけど、まずは、手分けしてLシリーズ物件の所有権(物件所有者の情報など)と抵当権(銀行の担保設定情報)を整理してほしい」

「どうやって調べればいいですか?」とミゲルが俺に聞いた。

「不動産の登記簿謄本を見れば分かるよ。この中で登記簿謄本の見方を知っている人はいるかな?」と俺はメンバーに聞いた。

 ルイーズ、スミス、ポールが手を挙げたのでこの3人は知っているようだ。

「じゃあ、他のメンバーは、ルイーズ、スミス、ポールと一緒に作業をしてもらえばいい」

「不動産の登記簿は聞いたことあるのですが、どういうものなんですか?」とミゲルが言った。

 最近、ミゲルは積極的に内部調査部の業務に関わっている。
 俺にアピールしているだけかもしれないが、他のメンバーがやる気を出してくれるかもしれないから、良い状況ではある。

 俺は先に不動産の登記簿謄本について説明することにした。

「まず、ジャービス王国で利用している不動産登記の仕組みは、どこかの国で採用されている制度を前国王がパクったものだ。前国王がその国に訪問した時に、不動産の情報を集約したデータベースを見て、ジャービス王国にも導入しようと思ったらしい」

「不動産登記は、そういう経緯で導入されたのですか」とミゲルが言った。

「その国では、不動産取得時に課税が発生し、不動産保有者に固定資産税として課税しているから、税収を増やすためには有効だと思ったようだ。ちなみに、不動産を売買で取得する場合は、不動産登記のための『登録免許税』と地方税である『不動産取得税』の2つが掛かるんだけど、不動産価格の5~6%(軽減税率を加味しない場合)を税金として徴収できるから、ジャービス王国としては結構いい収入になるんだ」

【図表4-0-1:不動産取得時に掛かる税金等】



 ※ここでは日本の不動産取得時の税率(軽減税率は加味していない)を掲載しています。
 なお、実務では不動産取得時の登録免許税と不動産取得税を合わせて『不動産流通税』といいます。

「確かに、ジャービス王国としては大きな収入源ですね」とミゲルが言った。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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