第5話 犯人は誰だ?
文字数 2,271文字
(5)犯人は誰だ
復活の呪文を俺に託したルイーズは、第13穀物倉庫の書類作業を再開し始めた。
やっと通常業務に戻れると安心した俺は、ルイーズに話しかけた。
「さっき休憩室で、管理部のスミスに会ってさ。在庫の件について、明日の午前9時からヒアリングをすることになった。一緒に来てくれないかな?」
「え?明日も来るの?」ルイーズは不機嫌そうだ。
今日も第13穀物倉庫に訪問するのを渋っていた。
明日の訪問理由を説明する必要があるだろう。
そう思って俺は休憩室でのやり取りの内容をルイーズに伝えた。
今回の不正は在庫管理をしている管理部が関係しているだろうこと。
スミスは20年間も第13穀物倉庫で勤務しているから不正をするのも発見するのも容易であること、などだ。
実際、状況から考えると、スミスは犯人か告発者のどちらかだろう。いずれにしても、今回の重要人物であることは間違いない。
休憩室で俺はスミスに、小麦の在庫に疑いを持っていることを伝えて、明日の打合せを依頼した。もし、スミスが不正の証拠を隠そうとすると今日の夜だろう。
「スミスが不正の証拠を隠そうとすると今日の夜だと思う。今夜は、倉庫で見張りをしないといけないな」と俺はルイーズに言った。
「え?残業?書類の確認は終わったから、実地棚卸に立会って帰ろうかと思っていたのに」
ルイーズは不満そうだ。
事前に彼女の予定を確認していなかったから、当然だ。何か予定があったのだろうか?
「予定でもあった?」とでも聞こうものなら、何とかハラスメントになるかもしれないから、気を付けないといけない。
数年前から総務省では残業する際には、事前申請が必要になった。
突発的に残業できるのは総務省では課長職以上だ。総務省が主導して『働き方改革』を推奨したから、俺が守らないわけにはいかない。
ルイーズは課長代理だから俺が事前に残業申請しないといけないのだが、今から申請しても間に合わないだろう。
それに、本人は残業したくないと言っている。今日は俺一人で残業するしかなさそうだ。
プライベートは詮索しないように気を付けつつ、「夜通し倉庫でルイーズが見張っていてくれ、という意味じゃないよ。夜の倉庫に女性がいるのは危ないし」と俺は言った。
ルイーズは俺の発言に反応しない。
「ただ、俺が一人で倉庫を見張るわけにいかないから、内務省に連絡して警察官を5人この工場に派遣してもらえるように手配してくれないかな?」と俺はルイーズに手配を頼んだ。
「まあ、残業しなくていいのなら・・・」とルイーズは言って作業部屋から出て行った。
倉庫内から電話をすると誰かに聞かれるかもしれないからだ。
約10分後にルイーズが電話から戻ってきて、警察官は18時に正面玄関から少し離れたカフェの前に来ると教えてくれた。
作業の進捗を確認する必要があるので、俺はルイーズに気づいた点を尋ねた。
「調査していて、気づいたことはなかった?」
「事前に入手していた書類とあまり変わらなかった。だけど、1つだけ気になったことがある。納品書と受領書に出てくる担当者が毎回違っているの」
「どういうこと?」
「例えば、第13穀物倉庫の仕入は購買部で行っているのだけど、毎月の受領書で出てくる担当者の名前が違うのよ」
「え?同じ担当者じゃないの?」
「過去1年間の月末仕入を遡ってみると、購買部の課長・課長代理のガブリエル、ロイ、ポールの3人が担当している」
「本当だね」
「購買部は3人全員がクロなのかな?それとも3人とも知らないのかな?どっちだと思う?ちなみに、管理部の担当者はスミスだけだから、スミスはクロかな・・・」とルイーズは言った。
「実際に在庫が動いているのだから、管理部だけで不正ができるわけない。購買部もグルと考えるのが自然だ。
ただ、人数が増えると不正が発覚するリスクが高くなるから、人数は少ない方がいいはずだ。購買部で3人も絡んでいるとは思えないな」俺は言った。
「そう思うでしょ。あと、今年に入ってからは仕入単価が30JD/kgの月と35JD/kgの月がある。在庫をごまかしているのは、毎月ではない」
「横流しする月としない月がある?
35JD/kgで仕入れると在庫の平均単価が上がってしまうから、一気に平均単価を上げないように調整しているのかな?」
犯人がもし在庫の仕入単価に気を付けるくらい用心深いとしたら、購買部が3人も絡んでいるとは考えにくい。俺は犯人の意図がますます分からなくなってきた。
俺はもう一つ気になっていたことをルイーズに聞いてみた。
「第13穀物倉庫はタンカーで穀物を直接搬入していないから、輸送に陸路を利用している。今日、貯蔵庫に搬入するところを見たと思うけど、すごい数のトレーラーが来ていたよね。
20tのトレーラーで小麦を運ぶ場合、1,750tで87.5台、1,500tで75台だ」
「そうね。それで?」ルイーズは俺の回りくどい言い方にイライラしている。
「小麦の搬入に来たトレーラーの数が10台以上違えば、誰でも分かるよね。
そもそもの話だけど、これだけ搬入がこれだけ大掛かりなわけだから、仕入数量が違うことを気付かない方がおかしくないか?」
「誰が見ても分かる嘘を隠している。つまり、組織的な関与ということ?」とルイーズは聞いた。
「そう。第13穀物倉庫の従業員、全員クロ、じゃないかな」と俺は呟いた。
「購買部の3人だけじゃなく、他の部署も全員?」
「名探偵ダニエルの推理は、第13穀物倉庫の全員犯人だ!」
さて、俺の推理は当たるのだろうか?
復活の呪文を俺に託したルイーズは、第13穀物倉庫の書類作業を再開し始めた。
やっと通常業務に戻れると安心した俺は、ルイーズに話しかけた。
「さっき休憩室で、管理部のスミスに会ってさ。在庫の件について、明日の午前9時からヒアリングをすることになった。一緒に来てくれないかな?」
「え?明日も来るの?」ルイーズは不機嫌そうだ。
今日も第13穀物倉庫に訪問するのを渋っていた。
明日の訪問理由を説明する必要があるだろう。
そう思って俺は休憩室でのやり取りの内容をルイーズに伝えた。
今回の不正は在庫管理をしている管理部が関係しているだろうこと。
スミスは20年間も第13穀物倉庫で勤務しているから不正をするのも発見するのも容易であること、などだ。
実際、状況から考えると、スミスは犯人か告発者のどちらかだろう。いずれにしても、今回の重要人物であることは間違いない。
休憩室で俺はスミスに、小麦の在庫に疑いを持っていることを伝えて、明日の打合せを依頼した。もし、スミスが不正の証拠を隠そうとすると今日の夜だろう。
「スミスが不正の証拠を隠そうとすると今日の夜だと思う。今夜は、倉庫で見張りをしないといけないな」と俺はルイーズに言った。
「え?残業?書類の確認は終わったから、実地棚卸に立会って帰ろうかと思っていたのに」
ルイーズは不満そうだ。
事前に彼女の予定を確認していなかったから、当然だ。何か予定があったのだろうか?
「予定でもあった?」とでも聞こうものなら、何とかハラスメントになるかもしれないから、気を付けないといけない。
数年前から総務省では残業する際には、事前申請が必要になった。
突発的に残業できるのは総務省では課長職以上だ。総務省が主導して『働き方改革』を推奨したから、俺が守らないわけにはいかない。
ルイーズは課長代理だから俺が事前に残業申請しないといけないのだが、今から申請しても間に合わないだろう。
それに、本人は残業したくないと言っている。今日は俺一人で残業するしかなさそうだ。
プライベートは詮索しないように気を付けつつ、「夜通し倉庫でルイーズが見張っていてくれ、という意味じゃないよ。夜の倉庫に女性がいるのは危ないし」と俺は言った。
ルイーズは俺の発言に反応しない。
「ただ、俺が一人で倉庫を見張るわけにいかないから、内務省に連絡して警察官を5人この工場に派遣してもらえるように手配してくれないかな?」と俺はルイーズに手配を頼んだ。
「まあ、残業しなくていいのなら・・・」とルイーズは言って作業部屋から出て行った。
倉庫内から電話をすると誰かに聞かれるかもしれないからだ。
約10分後にルイーズが電話から戻ってきて、警察官は18時に正面玄関から少し離れたカフェの前に来ると教えてくれた。
作業の進捗を確認する必要があるので、俺はルイーズに気づいた点を尋ねた。
「調査していて、気づいたことはなかった?」
「事前に入手していた書類とあまり変わらなかった。だけど、1つだけ気になったことがある。納品書と受領書に出てくる担当者が毎回違っているの」
「どういうこと?」
「例えば、第13穀物倉庫の仕入は購買部で行っているのだけど、毎月の受領書で出てくる担当者の名前が違うのよ」
「え?同じ担当者じゃないの?」
「過去1年間の月末仕入を遡ってみると、購買部の課長・課長代理のガブリエル、ロイ、ポールの3人が担当している」
「本当だね」
「購買部は3人全員がクロなのかな?それとも3人とも知らないのかな?どっちだと思う?ちなみに、管理部の担当者はスミスだけだから、スミスはクロかな・・・」とルイーズは言った。
「実際に在庫が動いているのだから、管理部だけで不正ができるわけない。購買部もグルと考えるのが自然だ。
ただ、人数が増えると不正が発覚するリスクが高くなるから、人数は少ない方がいいはずだ。購買部で3人も絡んでいるとは思えないな」俺は言った。
「そう思うでしょ。あと、今年に入ってからは仕入単価が30JD/kgの月と35JD/kgの月がある。在庫をごまかしているのは、毎月ではない」
「横流しする月としない月がある?
35JD/kgで仕入れると在庫の平均単価が上がってしまうから、一気に平均単価を上げないように調整しているのかな?」
犯人がもし在庫の仕入単価に気を付けるくらい用心深いとしたら、購買部が3人も絡んでいるとは考えにくい。俺は犯人の意図がますます分からなくなってきた。
俺はもう一つ気になっていたことをルイーズに聞いてみた。
「第13穀物倉庫はタンカーで穀物を直接搬入していないから、輸送に陸路を利用している。今日、貯蔵庫に搬入するところを見たと思うけど、すごい数のトレーラーが来ていたよね。
20tのトレーラーで小麦を運ぶ場合、1,750tで87.5台、1,500tで75台だ」
「そうね。それで?」ルイーズは俺の回りくどい言い方にイライラしている。
「小麦の搬入に来たトレーラーの数が10台以上違えば、誰でも分かるよね。
そもそもの話だけど、これだけ搬入がこれだけ大掛かりなわけだから、仕入数量が違うことを気付かない方がおかしくないか?」
「誰が見ても分かる嘘を隠している。つまり、組織的な関与ということ?」とルイーズは聞いた。
「そう。第13穀物倉庫の従業員、全員クロ、じゃないかな」と俺は呟いた。
「購買部の3人だけじゃなく、他の部署も全員?」
「名探偵ダニエルの推理は、第13穀物倉庫の全員犯人だ!」
さて、俺の推理は当たるのだろうか?