第3話 イベント会社の評判を聞こう(その2)
文字数 2,181文字
(3) イベント会社の評判を聞こう <続き>
フォーレンダム証券とIFAが販売する社債は、トルネアセットマネジメントという投資運用業者が組成したファンドが発行しているものだ。
ファンドが社債発行によって調達した資金を、トルネアセットマネジメントが運用している。
ターニャの話では、トルネアセットマネジメントは、毎月ファンドを組成して社債で資金調達をしているようだ。フォーレンダム証券が月1回社債販売イベントを行うのは、毎月新しいファンドが設立されているからだ。
トルネアセットマネジメントは約10年間毎月ファンドを組成しているから、既にファンドを約120運用していることになる。
ターニャは、トルネアセットマネジメントの運用成績は悪くないと言っていた。ファンドが調達した資金も適切に運用されており、運用面での問題はなさそうだ。
やはり投資詐欺の可能性は低そうだ、と俺は思った。
トルネアセットマネジメントが社債販売をフォーレンダム証券に委託したのが7年前のことで、この時期から社債発行が急激に伸びた。
具体的には、フォーレンダム証券が販売する前は、毎月の劣後社債の発行額は約1億JDだった。これが、フォーレンダム証券が劣後社債の販売を開始してから、毎月の発行額が5億JD、10億JDと増えていき、最終的には50億JDまで膨らんだ。
社債の利回りは12%(月1%)と高い。ちなみに、ジャービス王国の普通預金金利が1%、10年国債金利が3%だ。利回りが高いのは、劣後社債だからだ。
トルネアセットマネジメントが組成するファンドは、住宅ローン債権を購入して運用している。対象債権は、平均残存期間10年、金利6%の住宅ローン債権だ。
ファンドが発行する社債は、普通社債と劣後社債の2種類ある。普通社債は劣後社債よりも返済が優先される。
ファンドが発行する社債は、普通社債:劣後社債=70%:20%の比率で、調達資金の残り10%はトルネアセットマネジメントが出資している。
住宅ローンに貸倒れ(回収不能)があった場合、まず返済に影響を受けるのは出資金、次に劣後社債だ。普通社債は、出資金と劣後社債が全額毀損した場合にだけ、返済に影響が出る。
普通社債はリスクが低く、劣後社債はリスクが高いから、利率に差が出るのだ。
【図表3-1:ファンドの運用サイドと調達サイド】
ファンドの調達資金の70%は金利3%の普通社債で賄っているため、劣後社債には12%の高金利を支払うことができる。
例えば、ファンドが住宅ローン債権10億JDを保有している場合、ファンドの年間金利収入は6,000万JD(10億JD×6%)だ。
普通社債が7億JDなので年間支払利息は2,100万JD(7億JD×3%)、普通社債の利息支払後の3,900万JD(6,000万JD-2,100万JD)が劣後社債の利息の支払原資となる。
劣後社債2億JDの年間支払利息は2,400万JD(2億JD×12%)なので、3,900万JDの支払原資から十分に賄える。
住宅ローン債権の一部に貸倒れが発生するかもしれないが、トルネアセットマネジメントの出資金の範囲内で十分に吸収できるため、普通社債と劣後社債の元利金返済に問題はない。
これらの話を聞くと、トルネアセットマネジメントの運用に、特に問題点は見当たらない。
ターニャの話を聞いていると、ロドリゲスから聞いていた情報と食い違いがある。
素人の母親が想像で話していた情報を、素人のロドリゲスから聞いたのだから、内容の信頼性が低いのだろう。
そうすると、今回のターニャの話も『きっと何かが違う』と考えておく必要があるかもしれない。
ターニャの話から判断すると、フォーレンダム証券やトルネアセットマネジメントが、積極的に詐欺行為や違法行為をしいるわけではなさそうだ。
************
ターニャは想像していたよりも内情に詳しく、ここまで事情が分かれば友人をわざわざ紹介してもらう必要はないのかもしれない。
あらかた話を聞いたミゲルは、ターニャに話しかけた。
「状況は大体分かった。それにしても、ターニャは内情にかなり詳しいね。ここまで詳しく事情が分かれば、友人を紹介してもらう必要がないのかもしれないね」
「まあ、そう言わずに。せっかくだから、何人か友人を紹介するわよ。それに、美味しいものをご馳走してくれるのでしょう?」
「部長には経費を使ってもいいと言われているから、それは大丈夫。まかせなさい!」
「さすが。それにしても、ロドリゲスっていういい加減な奴に払うくらいだったら、私に10万JD払ってくれればいいのに」とターニャは言った。
「それはさすがに難しいけど、何かご馳走するから、それで我慢してよ」
「わかったわよ」
「ところで、社債の内容を精査する必要があるから、社債の発行要項をできる限り入手したいんだ。できれば、友人にも持っている社債の発行要項を全部持ってきてもらえるように、お願いしてもらえるとありがたいのだけれど」
「分かった。それくらい大丈夫よ」
そう言うと、ターニャは「これお願いね」と伝票を残して去っていった。
どうやら、ミゲルたちが来る前に店で一番高いステーキを頼んでいたらしい。
次も高級店に行けると思っているのか、ターニャの後ろ姿は嬉しそうだった。
フォーレンダム証券とIFAが販売する社債は、トルネアセットマネジメントという投資運用業者が組成したファンドが発行しているものだ。
ファンドが社債発行によって調達した資金を、トルネアセットマネジメントが運用している。
ターニャの話では、トルネアセットマネジメントは、毎月ファンドを組成して社債で資金調達をしているようだ。フォーレンダム証券が月1回社債販売イベントを行うのは、毎月新しいファンドが設立されているからだ。
トルネアセットマネジメントは約10年間毎月ファンドを組成しているから、既にファンドを約120運用していることになる。
ターニャは、トルネアセットマネジメントの運用成績は悪くないと言っていた。ファンドが調達した資金も適切に運用されており、運用面での問題はなさそうだ。
やはり投資詐欺の可能性は低そうだ、と俺は思った。
トルネアセットマネジメントが社債販売をフォーレンダム証券に委託したのが7年前のことで、この時期から社債発行が急激に伸びた。
具体的には、フォーレンダム証券が販売する前は、毎月の劣後社債の発行額は約1億JDだった。これが、フォーレンダム証券が劣後社債の販売を開始してから、毎月の発行額が5億JD、10億JDと増えていき、最終的には50億JDまで膨らんだ。
社債の利回りは12%(月1%)と高い。ちなみに、ジャービス王国の普通預金金利が1%、10年国債金利が3%だ。利回りが高いのは、劣後社債だからだ。
トルネアセットマネジメントが組成するファンドは、住宅ローン債権を購入して運用している。対象債権は、平均残存期間10年、金利6%の住宅ローン債権だ。
ファンドが発行する社債は、普通社債と劣後社債の2種類ある。普通社債は劣後社債よりも返済が優先される。
ファンドが発行する社債は、普通社債:劣後社債=70%:20%の比率で、調達資金の残り10%はトルネアセットマネジメントが出資している。
住宅ローンに貸倒れ(回収不能)があった場合、まず返済に影響を受けるのは出資金、次に劣後社債だ。普通社債は、出資金と劣後社債が全額毀損した場合にだけ、返済に影響が出る。
普通社債はリスクが低く、劣後社債はリスクが高いから、利率に差が出るのだ。
【図表3-1:ファンドの運用サイドと調達サイド】
ファンドの調達資金の70%は金利3%の普通社債で賄っているため、劣後社債には12%の高金利を支払うことができる。
例えば、ファンドが住宅ローン債権10億JDを保有している場合、ファンドの年間金利収入は6,000万JD(10億JD×6%)だ。
普通社債が7億JDなので年間支払利息は2,100万JD(7億JD×3%)、普通社債の利息支払後の3,900万JD(6,000万JD-2,100万JD)が劣後社債の利息の支払原資となる。
劣後社債2億JDの年間支払利息は2,400万JD(2億JD×12%)なので、3,900万JDの支払原資から十分に賄える。
住宅ローン債権の一部に貸倒れが発生するかもしれないが、トルネアセットマネジメントの出資金の範囲内で十分に吸収できるため、普通社債と劣後社債の元利金返済に問題はない。
これらの話を聞くと、トルネアセットマネジメントの運用に、特に問題点は見当たらない。
ターニャの話を聞いていると、ロドリゲスから聞いていた情報と食い違いがある。
素人の母親が想像で話していた情報を、素人のロドリゲスから聞いたのだから、内容の信頼性が低いのだろう。
そうすると、今回のターニャの話も『きっと何かが違う』と考えておく必要があるかもしれない。
ターニャの話から判断すると、フォーレンダム証券やトルネアセットマネジメントが、積極的に詐欺行為や違法行為をしいるわけではなさそうだ。
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ターニャは想像していたよりも内情に詳しく、ここまで事情が分かれば友人をわざわざ紹介してもらう必要はないのかもしれない。
あらかた話を聞いたミゲルは、ターニャに話しかけた。
「状況は大体分かった。それにしても、ターニャは内情にかなり詳しいね。ここまで詳しく事情が分かれば、友人を紹介してもらう必要がないのかもしれないね」
「まあ、そう言わずに。せっかくだから、何人か友人を紹介するわよ。それに、美味しいものをご馳走してくれるのでしょう?」
「部長には経費を使ってもいいと言われているから、それは大丈夫。まかせなさい!」
「さすが。それにしても、ロドリゲスっていういい加減な奴に払うくらいだったら、私に10万JD払ってくれればいいのに」とターニャは言った。
「それはさすがに難しいけど、何かご馳走するから、それで我慢してよ」
「わかったわよ」
「ところで、社債の内容を精査する必要があるから、社債の発行要項をできる限り入手したいんだ。できれば、友人にも持っている社債の発行要項を全部持ってきてもらえるように、お願いしてもらえるとありがたいのだけれど」
「分かった。それくらい大丈夫よ」
そう言うと、ターニャは「これお願いね」と伝票を残して去っていった。
どうやら、ミゲルたちが来る前に店で一番高いステーキを頼んでいたらしい。
次も高級店に行けると思っているのか、ターニャの後ろ姿は嬉しそうだった。