第9話 デューデリジェンス(その4)
文字数 1,644文字
(9) デューデリジェンス <続き>
「ジャービット・エクスチェンジのP/L(損益計算書)は、顧客との取引スプレッドが営業収益として計上されていて、それ以外は一般的な経費が発生しているだけです。ジャービット・エクスチェンジのB/S(貸借対照表)はほとんど資産・負債がありません。親会社ジャービットも資産は現預金と投資有価証券だけです」
「想像していたよりもシンプルですね」
「それで、デューデリのスコープについてはB/Sを中心にお願いします」
「B/S中心ですね」
「現状、ジャービット・エクスチェンジは暗号資産の売買取引を停止しています。顧客の売り注文が殺到していて買取りができないからです。既にジャービット・エクスチェンジの事業は停止しているようなものなので、過去の収益性(P/L情報)は重要ではありません」
「もう事業停止状態ですか・・・」
「ええ。ただ、経営陣はスポンサーに対して職員の継続雇用を希望しています。他にも賃料など固定費は発生するでしょうから、ジャービット・エクスチェンジで継続的に発生する費用を把握しておく必要があります」
「それでは、P/Lは2社に継続的に発生する固定費を集計すればいいですね?」
「そうですね」
「ところで、B/Sは何をメインに調べればいいですか?」
「B/Sは、投資家がジャービット・コインをどれだけ保有しているか、投資家からジャービット・コインを買取るための資金がどれだけ残っているかを精査して下さい」
「分かりました」
「弁護士が言うには、ジャービット・エクスチェンジは投資家からジャービット・コインを買取る資金が不足して民事再生法の適用申請をしたようです。我々がスポンサーとして出資する金額はその不足額です。必要な金額を精査しておく必要がありますから」
「ジャービット・コインの買取資金には現預金だけでなく投資有価証券も含めますよね?」
「投資有価証券が現金化できるかは分かりませんが、一部は買取資金として利用できますね」
「そうすると・・・、B/Sに計上されている投資有価証券はどこまで詳細に検討しますか?」とトーマスが言った。
「本来であれば非上場株式の時価評価をした方がいいのでしょうけど、我々は非上場企業への投資には興味がありません。ベンチャーキャピタルではありませんから。どちらかと言えば、現金化できる金額を優先的に知りたいので、投資有価証券は簿価純資産額(会計上の純資産額から株式価値を評価する方法)で評価替えしてもらえれば結構です」と私は答えた。
「分かりました。今回はM&Aの入札ではありませんし、それくらい割り切ってもいいのかもしれませんね」
「お願いします。他に不明な点はありますか?」と私はトーマスに質問した。
「1つあります。ジャービット・エクスチェンジは顧客からの預り資産をキチンと分別管理しているのでしょうか? XFTが破産した際には顧客資産が流出して問題になっていました。もし分別管理が不十分だと、後々問題になる可能性が高いですから・・・」とトーマスが言った。
「弁護士は『分別管理は問題ない』と言っていました。ただ、鵜呑みにするわけにはいきませんから、念のためにデューデリの際に整合性が取れているかを確認して下さい」
「分かりました。デューデリはいつから開始する予定ですか?」
「急で申し訳ないのですが、明日から開始できますか?」
「急ですね。ちょっと待ってください」
そう言うとトーマスはスケジュールを確認した。
「2社のB/Sは非常に単純なので1~2人で対応できます。それであれば、明日からで問題ありません」
「ありがとうございます。ちなみに、日数はどれくらい掛かりますか?」
「現地作業は1日あれば終わりそうです。報告書を作成するのに追加で数日必要とすると、1週間あれば全部終わります」とトーマスが言った。
「ありがとうございます。それでは、明日はよろしくおねがいします。」
こうして、ジャービット・エクスチェンジのデューデリが始まった。
<続く>
「ジャービット・エクスチェンジのP/L(損益計算書)は、顧客との取引スプレッドが営業収益として計上されていて、それ以外は一般的な経費が発生しているだけです。ジャービット・エクスチェンジのB/S(貸借対照表)はほとんど資産・負債がありません。親会社ジャービットも資産は現預金と投資有価証券だけです」
「想像していたよりもシンプルですね」
「それで、デューデリのスコープについてはB/Sを中心にお願いします」
「B/S中心ですね」
「現状、ジャービット・エクスチェンジは暗号資産の売買取引を停止しています。顧客の売り注文が殺到していて買取りができないからです。既にジャービット・エクスチェンジの事業は停止しているようなものなので、過去の収益性(P/L情報)は重要ではありません」
「もう事業停止状態ですか・・・」
「ええ。ただ、経営陣はスポンサーに対して職員の継続雇用を希望しています。他にも賃料など固定費は発生するでしょうから、ジャービット・エクスチェンジで継続的に発生する費用を把握しておく必要があります」
「それでは、P/Lは2社に継続的に発生する固定費を集計すればいいですね?」
「そうですね」
「ところで、B/Sは何をメインに調べればいいですか?」
「B/Sは、投資家がジャービット・コインをどれだけ保有しているか、投資家からジャービット・コインを買取るための資金がどれだけ残っているかを精査して下さい」
「分かりました」
「弁護士が言うには、ジャービット・エクスチェンジは投資家からジャービット・コインを買取る資金が不足して民事再生法の適用申請をしたようです。我々がスポンサーとして出資する金額はその不足額です。必要な金額を精査しておく必要がありますから」
「ジャービット・コインの買取資金には現預金だけでなく投資有価証券も含めますよね?」
「投資有価証券が現金化できるかは分かりませんが、一部は買取資金として利用できますね」
「そうすると・・・、B/Sに計上されている投資有価証券はどこまで詳細に検討しますか?」とトーマスが言った。
「本来であれば非上場株式の時価評価をした方がいいのでしょうけど、我々は非上場企業への投資には興味がありません。ベンチャーキャピタルではありませんから。どちらかと言えば、現金化できる金額を優先的に知りたいので、投資有価証券は簿価純資産額(会計上の純資産額から株式価値を評価する方法)で評価替えしてもらえれば結構です」と私は答えた。
「分かりました。今回はM&Aの入札ではありませんし、それくらい割り切ってもいいのかもしれませんね」
「お願いします。他に不明な点はありますか?」と私はトーマスに質問した。
「1つあります。ジャービット・エクスチェンジは顧客からの預り資産をキチンと分別管理しているのでしょうか? XFTが破産した際には顧客資産が流出して問題になっていました。もし分別管理が不十分だと、後々問題になる可能性が高いですから・・・」とトーマスが言った。
「弁護士は『分別管理は問題ない』と言っていました。ただ、鵜呑みにするわけにはいきませんから、念のためにデューデリの際に整合性が取れているかを確認して下さい」
「分かりました。デューデリはいつから開始する予定ですか?」
「急で申し訳ないのですが、明日から開始できますか?」
「急ですね。ちょっと待ってください」
そう言うとトーマスはスケジュールを確認した。
「2社のB/Sは非常に単純なので1~2人で対応できます。それであれば、明日からで問題ありません」
「ありがとうございます。ちなみに、日数はどれくらい掛かりますか?」
「現地作業は1日あれば終わりそうです。報告書を作成するのに追加で数日必要とすると、1週間あれば全部終わります」とトーマスが言った。
「ありがとうございます。それでは、明日はよろしくおねがいします。」
こうして、ジャービット・エクスチェンジのデューデリが始まった。
<続く>