第5話 借地権制度の問題点を解決しろ(その1)

文字数 1,661文字

(5)借地権制度の問題点を解決しろ

 ガブリエルが指摘したように、ジャービス王国の借地権は今の時代に合っていない気がする。借地権制度は昔から存在しているから、ジャービス王国で周知されている。だが、昔のように家や家族の繋がりは強くないし、領地を管理するという意識も希薄になっているから、従来型の借地権制度を継続するのは弊害をもたらす。

 俺はジャービス王国の借地権の制度について、改めて考えてみることにした。
 それに、内部調査部の調査案件としても、対応策を検討しないといけないだろう。

 対応策を考えていると、ロイが「部長、ちょっと教えてほしいんですけど」と俺に言った。

「どうしたの?」

「借地権は純粋な土地の賃貸借契約と思っていたのですが、なぜここまで問題になるんですか?」

「ああ、それか。借地権は貸主(地主)と借主(借地権者)でそれぞれ利害が対立するからね」

「具体的にどういうことですか?」

「うーん。説明が難しいな。そもそもなんだけど、借地権は1つじゃないよね?」

「え? そうなんですか?」

「そうだよ。借地権はいくつか種類がある。それぞれの借地権によって用途や契約期間が違う」

「借地権の種類ですか・・・」

「例えば、ジャービス王国の代表的な借地権の種類はこんな感じだ」

 俺はそういうとホワイトボードに図(図表10-14)を描いた。


【図表10-14:借地権の種類】




※借地権の種類は日本と同じ前提で説明しています。なお、旧法(借地法)における借地権については省略しています。

 内部調査部のメンバーが俺の書いた図を見ているから、俺は説明を続ける。

「一般的な借地権はこの中の『普通借地権』だ。法律で契約期間は当初30年以上と決まっている。だけど、借地権者(土地の借主)は契約延長することによって半永久的に土地を借りることができるんだ。言ってみれば、実質的に期限がないのと同じだね」

「土地は一度貸したら返ってこない、というやつですね」

「そうだね。それだと貸主(土地の所有者)にあまりにも不利だから、契約更新をしなくていい借地権も存在するんだ。例えば、『一般定期借地権』だ。これは契約期間が50年以上だけど契約更新はなく、契約終了後に借地権者(土地の借主)は更地にして貸主(土地の所有者)に土地を返還しないといけない」

「一般定期借地権ですか?」

「『一般定期借地権』は住宅用の借地権だ。例えば、コンドミニアムを建設する時に一般定期借地権で契約期間を70年として土地を貸したら、契約終了後(70年経ったら)に土地は戻ってくる」

「へー。コンドミニアムに50年以上も住まない、そういうことなんですかね?」

「立法経緯を詳しく知らないけど、そういうことじゃないかな。他に住宅用の借地権としては『建物譲渡特約付借地権』がある。契約期間は30年以上だから『一般定期借地権』よりも短い。だけど、契約終了後に地主(土地の貸主)は借地権者(土地の借主)から建物を買取らないといけない」

「契約期間が短くていい反面、地主に資金負担が発生するんですね」

「そうだね。借地権者(土地の借主)が建物を処分できるから、契約期間が『一般定期借地権』よりも短くなっているのだと思う。そして、最も契約期間が短いのが『事業用定期借地権』だ。契約期間は10年以上50年未満だから10年でもいい。これは事業用不動産(店舗や商業施設など)の土地として賃貸する場合だから住宅用じゃない。『事業用定期借地権』も借地権者(土地の借主)は契約終了後に更地にして返還する」

「へー。『事業用定期借地権』だったら10年で土地が戻ってくるんですね」

「地主からすると、土地が戻ってくるまでの期間が最も長いのが『普通借地権』。最も短いのが『事業用定期借地権』。用途によって違うけど、地主は土地を早く返してほしければ、契約期間の短い借地権で契約すればいい。つまり、地主はどの借地権で土地を貸すかを検討しないといけない」

 俺がメンバーを見渡すと質問はなさそうだ。借地権については理解してくれたような気がする。


<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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