第7話 銀行はシロかクロか(その4)

文字数 1,574文字

 (7) 銀行はシロかクロか <続き>

「そうよね・・・」とルイーズは言った。

「だから、ロワール銀行がクロだったら、今回の調査案件は解決できない」と俺は説明した。

 ルイーズは少し考えてから俺に言った。

「個人投資家では、ケース3になる前にロワール銀行からの借入をLファイナンスが借換えしている。だから、実際の事例としてケース3は存在しない。そういうこと?」

「そう思う」と俺は答えた。

「それだとケース3の事例を探すだけ無駄かもしれないわね。この調査を続ける意味があると思う?」

「正直言うと、調査を継続しても誰の役にも立たないと思う。『不正融資はダメなことだから、みなさんやらないように!』という結論になるかな・・・」

 俺は正直な感想を言った。すると、黙って聞いていたガブリエルが急に言った。

「そんなことを言わないでください。個人投資家が被害を受けているんですから」
 ディーンの話を聞いて感情移入しているようだ。

「そうは言っても、個人投資家は、この事件における加害者だ。被害者じゃない。」と俺はガブリエルに言った。

「そうですけど・・・」
 ガブリエルは言葉に詰まる。

「レンソイス不動産から勧められた投資用不動産を、自分の実力よりも多く買っただけ。
 借入金が返済できなくて、Lファイナンスに担保物件を処分されただけ。
 レンソイス不動産は、競売でたまたま不動産を購入しただけ。」

「・・・」

「今回の融資詐欺は、個人投資家が書類を偽造した以外は、合法的な取引だからね」と俺は言った。

 次はロイが発言した。

「それはそうですが・・・、あまりにも可哀想じゃないですか。」
 ロイも個人投資家に同情しているようだ。

 感情論で調査を続ける訳にはいかないし、どうしよう?

 ***

 会議室が静まり返った中、空気を読まないミゲルがぼそっと言った。

「さっきから部長とルイーズの話を聞いていたんですけど、一連の不動産取引を不正や犯罪として調査しても、あまり意味がないということでしょうか?」

「そうだよ」

「そうであれば、この案件を使って、儲ける方向で考えたらどうでしょうか?」とミゲルが言った。

「え? どういうこと?」

 今度はガブリエルが話に入ってきた。

「個人投資家の被害を抑えつつ、儲かることをする。来期予算の達成には必要です!」
 ガブリエルは力説しているのだが、ディーンに感情移入し過ぎている。

 ― 本来の目的を見失ってはダメだぞ!

 俺はガブリエルを諭そうとしたら、今度はルイーズが先に言った。

「もう、それでいいじゃない。詐欺罪の件は、調査結果をまとめて警察に動いてもらえば?」
 ルイーズは調査に飽きてきたようだ。

 内部調査部のメンバーは感情に流されやすい。
 よく分からない方向に進みそうだ・・・。

「他の人はどう思う?」と俺はメンバーに聞いた。

 今度はスミスが発言した。

「私も、これ以上調査しても進展がないと思います。来期予算もありますし、この案件を使って稼いだらいいじゃないですか?」
 唯一のストッパーだと思っていたスミスまで、そんなことを言いだした。
 普段真面目な人間が言うと、俺もそういうものかと思ってしまう。

 他のメンバーを見ても、不正融資の調査よりも、『不動産会社にカモにされる可哀想な個人投資家を助けてあげたい』という変な正義感に傾いている。

 ― 本来の目的を見失ってはダメだぞ!

「何度も言うようだけど、これは内部調査部の業務範囲外だからね。」と俺は言った。

「分かっています。でも、助けてあげて下さい!」とガブリエルは食い下がる。

「分かったよ。みんながそう言うなら、個人投資家を助ける手段も考えようか」と俺はメンバーの正義感に従うことにした。

「ありがとうございます。」とガブリエル。

「じゃあ、こういうのはどうかな?」と言って、俺は思いついた案を説明することにした。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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