第3話 スペシャリストらしく調査しよう(その2)
文字数 1,836文字
(3)スペシャリストらしく調査しよう <続き>
俺の喧嘩腰の発言にチャールズは怒りを覚えたらしい。
「進め方が難しいんだよ!」チャールズはキレた。
俺はチャールズの性格を熟知している。
こいつは責任逃れのプロだ。
リスクが少しでもあるとビビる。
そして、キレているということは、後ろめたいことがある筈だ・・・
俺は『チャールズがキレているポイント』をもう少し突いてみることにした。
「不正調査の情報を集めている内部告発ホットラインに、インフレ対応と為替対応のメッセージがくるなんて異常な事態ですよ。国王に知れたら面倒じゃないですか?」
「うるさいなー。こっちも精一杯やってるんだよ!」チャールズはまだキレている。
微妙な沈黙に支配されるチャールズの執務室。
ルイーズとロイは俺たち兄弟が見えていないフリをしている。まるで空気のようだ。
しばらく俺とチャールズが険悪なまま沈黙が続いたが、これ以上黙っていても話が進まない。
だから、俺は声のトーンを下げてチャールズに聞いた。
「別に責めているわけじゃないんです。原因は何ですか?」
俺はチャールズを真っ直ぐに見つめて言った。
チャールズは冷静になった俺を見て、自らも冷静さを取り戻したようだ。
「内務省でも対応してるんだが、通貨安の直接の原因はヘッジファンドだ。ジャービス・ドルを大量に売っている」
「そうなの?」
どうやら、チャールズも何も対策していないわけではなさそうだ。
少し落ち着いたチャールズは、俺たちに状況を話し始めた。
「パンデミックが始まってから先進国の中央銀行が一斉に利上げを始めただろう?」
「ええ。欧米の中央銀行はインフレ抑制のために一斉に利上げしましたね」
「ジャービス王国はパンデミックが始まってからもインフレ率がほとんど変化しなかった。だから、利上げをしなかったんだ。そうすると、ジャービス・ドルを売って、米ドルを買う国内投資家が増えてきた」
「ジャービス・ドルは下がりますね(為替レートは上がる)」
「かなり下がった。ジャービス王国の金利は3%のままだけど、米国は金利を1%から4%に引き上げた。一般的な認識として、ジャービス・ドル(JD)よりも米ドルの方が信用力は高いから、金利の低いジャービス・ドルを持つよりも、米ドルを持っておいた方がいいと考えるのは自然なことだ(図表7-1参照)」とチャールズは説明した。
【図表7-1:通貨安の理由】
「まあ、そうなるでしょうね」
「さらに、米ドル金利が上がってジャービス・ドル安になると、輸入品の価格が上がる」
※通貨安(ジャービス・ドル安)とは、為替レートが1米ドル=100JDから1米ドル=150JDに上がる状態です。
「ジャービス王国は工業製品の輸入が多いからなー。インフレが起きるね」
「そこに目をつけたヘッジファンドが、ジャービス・ドルを売り始めたんだ」とチャールズは言った。
「何か対策はしたの?」
「いくつかは対策した。それに、通貨安を解消するためにジャービス中央銀行で利上げを検討している」
※ジャービス王国が利上げを行うと、海外(例えば、米国)に流出していた預金をジャービス王国に戻すことができるため、JD高を誘導します。
「他には?」
「既に行った対策としては、ジャービス王国が保有している米国債を売って、ジャービス・ドルを買った」
※米ドル建の債券を売却してジャービス・ドルを買うと、米ドルを減らしてジャービス・ドルを増やします。ジャービス・ドルが増えるため、米国債の売却はJD高を誘導します。
「効果は?」
「ないね。ボリュームが全然足りない」
「そうかー。大変だね。ちなみに、どこが売ってるの?」
「ジョージ・サラスのファンドが最初に売り始めた。そしたら、他のファンドが追随してきた」
※ジョージ・ソロス(ハンガリー系ユダヤ人の投資家。天才投資家として知られ『イングランド銀行を潰した男』と言われています。)とは別人です。
「結構事態は深刻だよね。国家的な通貨危機に発展するかもしれないよ」と俺は言った。
「だよな・・・」
「そこまでいくと、内務省だけで対応するのは難しくないかな? 国王に相談してみない?」と俺はチャールズに提案した。
「そうだな。対策しようにも内務省だけでは効果なさそうだし、通貨危機になると責任問題だよな・・・」
責任を取りたくないチャールズには俺の提案が刺さったようだ。
俺が予想していたよりもジャービス王国は危機的な状況なのかもしれない。
さて、どうするか?
俺の喧嘩腰の発言にチャールズは怒りを覚えたらしい。
「進め方が難しいんだよ!」チャールズはキレた。
俺はチャールズの性格を熟知している。
こいつは責任逃れのプロだ。
リスクが少しでもあるとビビる。
そして、キレているということは、後ろめたいことがある筈だ・・・
俺は『チャールズがキレているポイント』をもう少し突いてみることにした。
「不正調査の情報を集めている内部告発ホットラインに、インフレ対応と為替対応のメッセージがくるなんて異常な事態ですよ。国王に知れたら面倒じゃないですか?」
「うるさいなー。こっちも精一杯やってるんだよ!」チャールズはまだキレている。
微妙な沈黙に支配されるチャールズの執務室。
ルイーズとロイは俺たち兄弟が見えていないフリをしている。まるで空気のようだ。
しばらく俺とチャールズが険悪なまま沈黙が続いたが、これ以上黙っていても話が進まない。
だから、俺は声のトーンを下げてチャールズに聞いた。
「別に責めているわけじゃないんです。原因は何ですか?」
俺はチャールズを真っ直ぐに見つめて言った。
チャールズは冷静になった俺を見て、自らも冷静さを取り戻したようだ。
「内務省でも対応してるんだが、通貨安の直接の原因はヘッジファンドだ。ジャービス・ドルを大量に売っている」
「そうなの?」
どうやら、チャールズも何も対策していないわけではなさそうだ。
少し落ち着いたチャールズは、俺たちに状況を話し始めた。
「パンデミックが始まってから先進国の中央銀行が一斉に利上げを始めただろう?」
「ええ。欧米の中央銀行はインフレ抑制のために一斉に利上げしましたね」
「ジャービス王国はパンデミックが始まってからもインフレ率がほとんど変化しなかった。だから、利上げをしなかったんだ。そうすると、ジャービス・ドルを売って、米ドルを買う国内投資家が増えてきた」
「ジャービス・ドルは下がりますね(為替レートは上がる)」
「かなり下がった。ジャービス王国の金利は3%のままだけど、米国は金利を1%から4%に引き上げた。一般的な認識として、ジャービス・ドル(JD)よりも米ドルの方が信用力は高いから、金利の低いジャービス・ドルを持つよりも、米ドルを持っておいた方がいいと考えるのは自然なことだ(図表7-1参照)」とチャールズは説明した。
【図表7-1:通貨安の理由】
「まあ、そうなるでしょうね」
「さらに、米ドル金利が上がってジャービス・ドル安になると、輸入品の価格が上がる」
※通貨安(ジャービス・ドル安)とは、為替レートが1米ドル=100JDから1米ドル=150JDに上がる状態です。
「ジャービス王国は工業製品の輸入が多いからなー。インフレが起きるね」
「そこに目をつけたヘッジファンドが、ジャービス・ドルを売り始めたんだ」とチャールズは言った。
「何か対策はしたの?」
「いくつかは対策した。それに、通貨安を解消するためにジャービス中央銀行で利上げを検討している」
※ジャービス王国が利上げを行うと、海外(例えば、米国)に流出していた預金をジャービス王国に戻すことができるため、JD高を誘導します。
「他には?」
「既に行った対策としては、ジャービス王国が保有している米国債を売って、ジャービス・ドルを買った」
※米ドル建の債券を売却してジャービス・ドルを買うと、米ドルを減らしてジャービス・ドルを増やします。ジャービス・ドルが増えるため、米国債の売却はJD高を誘導します。
「効果は?」
「ないね。ボリュームが全然足りない」
「そうかー。大変だね。ちなみに、どこが売ってるの?」
「ジョージ・サラスのファンドが最初に売り始めた。そしたら、他のファンドが追随してきた」
※ジョージ・ソロス(ハンガリー系ユダヤ人の投資家。天才投資家として知られ『イングランド銀行を潰した男』と言われています。)とは別人です。
「結構事態は深刻だよね。国家的な通貨危機に発展するかもしれないよ」と俺は言った。
「だよな・・・」
「そこまでいくと、内務省だけで対応するのは難しくないかな? 国王に相談してみない?」と俺はチャールズに提案した。
「そうだな。対策しようにも内務省だけでは効果なさそうだし、通貨危機になると責任問題だよな・・・」
責任を取りたくないチャールズには俺の提案が刺さったようだ。
俺が予想していたよりもジャービス王国は危機的な状況なのかもしれない。
さて、どうするか?