第1話 銀行の破綻(その6)
文字数 1,740文字
(1)銀行の破綻 <続き>
この段階で内務省がすべきことは、銀行が救済可能な状況にあるかを調査することだ。
それはチャールズ自身が一番分かっていることだろう。
できるだけ早く調査を行って、救うべき銀行と救わない銀行を選別しなければならない。
次に、俺はチャールズが「手伝ってほしい」と言ってくると予想している。
しかし、銀行は総務省の管轄ではないし、銀行の調査は内部調査部の業務範囲ではない。
だから、チャールズが何を言ってこようと俺は断るつもりだ。
俺がそう考えていると、チャールズが深刻な顔をして言った。
「正直に言うと、国内銀行の状況把握に時間が掛かり過ぎて、問題のある銀行を調査する時間がないんだ・・・」
「手伝いませんよ!」俺は即答した。
チャールズは困った顔をして話を続けた。よく見ると、薄っすらと涙目になっているような気もする。
「金融危機に発展するかもしれないけど、内務省だけでは対応できないんだ・・・」
「だから、手伝わないって!」
「セレナ銀行だけでいいから・・・」
「嫌です!」
チャールズの泣き落し作成は失敗した。
でも、チャールズは執拗に食い下がる。
「父(国王)はダニエルのことを『アイツは頭もいいし、実行力もある!』って褒めてた。当然、俺も自慢の弟だと思ってる!」
俺に泣き落しが効かなかったから、チャールズは煽(おだ)てる作戦に変更したようだ。
「それはどうも。でも手伝いませんよ!」
「ジェームス兄さんもアンドリューも『ダニエルは凄い!』って言ってる!」
俺はこの話に飽きてきたから「もう帰っていいですか?」とチャールズに聞いた。
チャールズは「ちょっと待って!」と言いながら俺の退室を阻んだ。
別の作戦を考えているようだ。
「ダニエル、欲しいものはないかな?」
チャールズは俺を物で釣る作戦に変更した。
俺は折角だから考えてみた。
王子だから金に困っていない。
総務大臣だから仕事もある。
妻はいないが、それはそのうち探そう。
―― 特に欲しいものはないな・・・
俺は別の観点で考えてみた。
俺は銀行の調査を断りたい。今のやり取りで考慮すべき事項はこれだけだ。
だから、俺がチャールズに対して言うべき回答は『欲しいものは無い!』もしくは『チャールズが用意できない要求をする』のどちらかだ。
―― チャールズが用意できない要求か・・・
俺は面白そうな気がした。
だから「ちょっと考えてみるから待って!」とチャールズに言って考えた。
そしたら、いい案が思い浮かんだ。
「王位が欲しい!」俺はそう言った。
ただの冗談だ。
俺はジャービス王国の王位には興味はない。
第四王子で困ることはないし、何より国王になると面倒そうだ。
俺の要求はチャールズの想定の範囲を超えていたようだ。
「うーん。それは即答できるような話じゃないな・・・」と言いながらチャールズは考え始めた。
―― これ、有効打じゃない?
俺はチャールズに悟られないように、笑いを噛殺した。
俺がニヤニヤしながら考え込むチャールズを見ていたら、「でも、お前が王位に就きたいんだったら応援するよ」とチャールズは言った。
チャールズからは予想外の返答があった。
俺は冗談で言ったのだが、チャールズは真剣に俺に答えている。
その様子を見ていて、俺は何か申し訳ない気がしてきた。罪悪感だ。
「冗談ですよ。銀行の調査を断りたかったから、ふざけただけですよ」
「そうか・・・。まあ、俺が国王になることはないだろうしな・・・」
「そんなことないですよ」
「お前も知っていると思うけど、俺はみんなから嫌われている。そんなヤツが国王になれるわけないよ。俺以外の兄弟3人の誰かが国王になるはずだ」
チャールズは小さく言った。
悪ふざけをした俺は、落ち込んでいるチャールズを目の前にしてますます申し訳なくなってきた。
―― 銀行の調査を手伝ってやるか・・・
俺は後ろめたさからそう思った。
だから、つい言ってしまった。
「分かったよ。銀行の調査を手伝うよ。でもセレナ銀行だけだからね!」
隣に座ったルイーズは俺を睨んでいる。
そして、チャールズが一瞬ニヤリとしたような気がした。
―― くそっ、演技かよ・・・
俺はまた余計な仕事を増やしてしまったようだ・・・
この段階で内務省がすべきことは、銀行が救済可能な状況にあるかを調査することだ。
それはチャールズ自身が一番分かっていることだろう。
できるだけ早く調査を行って、救うべき銀行と救わない銀行を選別しなければならない。
次に、俺はチャールズが「手伝ってほしい」と言ってくると予想している。
しかし、銀行は総務省の管轄ではないし、銀行の調査は内部調査部の業務範囲ではない。
だから、チャールズが何を言ってこようと俺は断るつもりだ。
俺がそう考えていると、チャールズが深刻な顔をして言った。
「正直に言うと、国内銀行の状況把握に時間が掛かり過ぎて、問題のある銀行を調査する時間がないんだ・・・」
「手伝いませんよ!」俺は即答した。
チャールズは困った顔をして話を続けた。よく見ると、薄っすらと涙目になっているような気もする。
「金融危機に発展するかもしれないけど、内務省だけでは対応できないんだ・・・」
「だから、手伝わないって!」
「セレナ銀行だけでいいから・・・」
「嫌です!」
チャールズの泣き落し作成は失敗した。
でも、チャールズは執拗に食い下がる。
「父(国王)はダニエルのことを『アイツは頭もいいし、実行力もある!』って褒めてた。当然、俺も自慢の弟だと思ってる!」
俺に泣き落しが効かなかったから、チャールズは煽(おだ)てる作戦に変更したようだ。
「それはどうも。でも手伝いませんよ!」
「ジェームス兄さんもアンドリューも『ダニエルは凄い!』って言ってる!」
俺はこの話に飽きてきたから「もう帰っていいですか?」とチャールズに聞いた。
チャールズは「ちょっと待って!」と言いながら俺の退室を阻んだ。
別の作戦を考えているようだ。
「ダニエル、欲しいものはないかな?」
チャールズは俺を物で釣る作戦に変更した。
俺は折角だから考えてみた。
王子だから金に困っていない。
総務大臣だから仕事もある。
妻はいないが、それはそのうち探そう。
―― 特に欲しいものはないな・・・
俺は別の観点で考えてみた。
俺は銀行の調査を断りたい。今のやり取りで考慮すべき事項はこれだけだ。
だから、俺がチャールズに対して言うべき回答は『欲しいものは無い!』もしくは『チャールズが用意できない要求をする』のどちらかだ。
―― チャールズが用意できない要求か・・・
俺は面白そうな気がした。
だから「ちょっと考えてみるから待って!」とチャールズに言って考えた。
そしたら、いい案が思い浮かんだ。
「王位が欲しい!」俺はそう言った。
ただの冗談だ。
俺はジャービス王国の王位には興味はない。
第四王子で困ることはないし、何より国王になると面倒そうだ。
俺の要求はチャールズの想定の範囲を超えていたようだ。
「うーん。それは即答できるような話じゃないな・・・」と言いながらチャールズは考え始めた。
―― これ、有効打じゃない?
俺はチャールズに悟られないように、笑いを噛殺した。
俺がニヤニヤしながら考え込むチャールズを見ていたら、「でも、お前が王位に就きたいんだったら応援するよ」とチャールズは言った。
チャールズからは予想外の返答があった。
俺は冗談で言ったのだが、チャールズは真剣に俺に答えている。
その様子を見ていて、俺は何か申し訳ない気がしてきた。罪悪感だ。
「冗談ですよ。銀行の調査を断りたかったから、ふざけただけですよ」
「そうか・・・。まあ、俺が国王になることはないだろうしな・・・」
「そんなことないですよ」
「お前も知っていると思うけど、俺はみんなから嫌われている。そんなヤツが国王になれるわけないよ。俺以外の兄弟3人の誰かが国王になるはずだ」
チャールズは小さく言った。
悪ふざけをした俺は、落ち込んでいるチャールズを目の前にしてますます申し訳なくなってきた。
―― 銀行の調査を手伝ってやるか・・・
俺は後ろめたさからそう思った。
だから、つい言ってしまった。
「分かったよ。銀行の調査を手伝うよ。でもセレナ銀行だけだからね!」
隣に座ったルイーズは俺を睨んでいる。
そして、チャールズが一瞬ニヤリとしたような気がした。
―― くそっ、演技かよ・・・
俺はまた余計な仕事を増やしてしまったようだ・・・