第3話 そして現在(その2)
文字数 2,273文字
(3)そして現在 <続き>
「今のところ順調です。部下が予定通りに作業を進めてくれていますから。
ところで、この倉庫で誰が会計帳簿や在庫の管理をしているか知っていますか?」と俺は尋ねた。
「もちろん。この倉庫で私が知らないことなんて、ありません」とターニャは言った。
「会計帳簿や在庫の管理なら、管理部の担当です。管理部のメンバーは、部長のジョージ、課長のスミス、エリザベスの3人。
ただ、ジョージは他の倉庫の管理部長も兼務しているから、月1日くらいしか見かけません。そう意味では、スミス、エリザベスの2人と言った方が正確かもしれません」とターニャは機嫌よく答えてくれた。
「そうですか。ちなみに、スミスとエリザベスはどういう人ですか?」と俺は尋ねた。
「スミスは真面目です。冗談をあまり言わないから、社交的ではないけど。
家が貧しかったから苦労して王立第二大学を卒業して、公務員になったみたい。
そうそう、年齢は部長よりも上で、この倉庫では最古参です」
言い方に棘(とげ)がある。ターニャはスミスのことが好きではないのだろう。
「じゃあ、スミスは第13穀物倉庫のことは、全て把握しているのですね?」
「私を除けば、そうでしょう。この倉庫で分からないことがあれば、スミスか私に聞けばほぼ解決します」とターニャは言った。
まただ。ターニャはスミスのことが嫌いだ。
スミスが嫌いだったら、俺が何か聞いても、いろいろ教えてくれそうだ。
「エリザベスはどうですか?」と俺はターニャに聞いた。
「エリザベスは今年から第13穀物倉庫で働きはじめた新人なので、まだまだ勉強中です。エリザベスが来るまでスミスが1人で対応していたので、スミスは助かっていると思います」とターニャは言った。
「エリザベスも第13穀物倉庫のことは大体把握しているのでしょうか?」と俺は尋ねる。
「うーん。日常業務は慣れてきていると思います。ただ、イレギュラーな対応はまだ難しいでしょう」とターニャは教えてくれた。
それにしても、すっかり話し込んでしまった。ターニャとの会話これくらいにしておこう。
俺はターニャにお礼を言って別れた。
ターニャの話しぶりから想像するに、スミスが犯人か告発者かどちらかだろう。
スミスから話を聞く前に、まずは証拠固めをしないといけない。
************
俺はルイーズに進捗を確認するために作業場に戻った。ターニャにつかまって30分以上話し込んでしまったので、ルイーズが怒っていないといいのだが。
「作業の進捗はどう?今日の仕入の納品書はあった?」と俺はルイーズに尋ねた。
「あったよ。1,500tを単価35JD/kgで仕入れている」とルイーズは答えた。
実際の仕入数量は1,750tなので250tごまかしている。これはいい証拠を入手できた。
心の中でガッツポーズをしていた俺に、「ところで、飲み物は?」とルイーズは言った。
「え?」
俺はターニャと話すのに夢中で忘れていたようだ。
************
仕方ないので、俺はまた休憩室に飲み物を買いに行く。そうしたら、また、ターニャに会った。こいつは、仕事せずに、ずっとここにいるじゃないのか?
「あら、何か忘れ物?」ターニャは話し相手がやってきて、喜んでいるようだ。
「ええ。飲み物取りにきたはずが、忘れてしまって。今度は忘れずに持っていかないと」
「ところで、さっき話したスミスがそこにいるのだけど、紹介しましょうか?」とターニャは言った。
話好きのおばさんは、仕事をサボる理由を探しているのだろう。
そういうと、俺の返事も聞かずにスミスを連れてきた。
「ダニエル王子、こちらが管理部のスミスです」とターニャが言った。
急に容疑者を紹介されたから俺は内心驚くものの、平静を装ってスミスと握手した。
「はじめまして。総務省のダニエルです。今日は実地棚卸の立会いで訪問していたのですが、飲み物を取りにきたら、ターニャと話し込んでしまって」と俺は自己紹介した。
「スミスです。管理部で課長をしています。ターニャに捕まると、なかなか解放してもらえないので、急いでいるときは気をつけてください」とスミスは冗談交じりに言った。
「職場でのコミュニケーションは重要なのよ」とターニャ。
「そうですね。以後、気をつけます。それで、スミス課長は第13穀物倉庫で最古参と伺ったのですが、ここで何年勤務されているのですか?」
「長すぎて恥ずかしいのですが、今年で20年です。その前は村役場で働いていました。普通の人は数年ごとにローテーションで他の職場に異動します。私はなぜか20年人事異動がなくて、気づいたら最古参になっていた、というわけです」とスミスは言った。
容疑者と雑談をしてそれで終了、というのは探偵として不甲斐ない。
本題に入るのは危険だが、少し揺さぶりをかけてみようと俺は考えた。
「なるほど。そういうこともあるのですね。ところで、事務所で書類を確認していたのですが、小麦の在庫で気になるところが幾つかありました。その件で話を伺いたいのです。
今日は在庫棚卸があって忙しいでしょうから、明日の朝に少しお時間をいただけませんか?」と俺は言った。
「明日の朝は特に予定がありませんから、午前9時から1時間程度でいかがでしょうか?」とスミスは答えた。
俺が小麦の在庫数量について疑問を持っていることはスミスに伝わったはずだ。
これで、もしスミスが関係していたら、動くのは今日の夜から明日の朝までの間だろう。
その間を監視すれば、不正の証拠と犯人が分かるはずだ。
「今のところ順調です。部下が予定通りに作業を進めてくれていますから。
ところで、この倉庫で誰が会計帳簿や在庫の管理をしているか知っていますか?」と俺は尋ねた。
「もちろん。この倉庫で私が知らないことなんて、ありません」とターニャは言った。
「会計帳簿や在庫の管理なら、管理部の担当です。管理部のメンバーは、部長のジョージ、課長のスミス、エリザベスの3人。
ただ、ジョージは他の倉庫の管理部長も兼務しているから、月1日くらいしか見かけません。そう意味では、スミス、エリザベスの2人と言った方が正確かもしれません」とターニャは機嫌よく答えてくれた。
「そうですか。ちなみに、スミスとエリザベスはどういう人ですか?」と俺は尋ねた。
「スミスは真面目です。冗談をあまり言わないから、社交的ではないけど。
家が貧しかったから苦労して王立第二大学を卒業して、公務員になったみたい。
そうそう、年齢は部長よりも上で、この倉庫では最古参です」
言い方に棘(とげ)がある。ターニャはスミスのことが好きではないのだろう。
「じゃあ、スミスは第13穀物倉庫のことは、全て把握しているのですね?」
「私を除けば、そうでしょう。この倉庫で分からないことがあれば、スミスか私に聞けばほぼ解決します」とターニャは言った。
まただ。ターニャはスミスのことが嫌いだ。
スミスが嫌いだったら、俺が何か聞いても、いろいろ教えてくれそうだ。
「エリザベスはどうですか?」と俺はターニャに聞いた。
「エリザベスは今年から第13穀物倉庫で働きはじめた新人なので、まだまだ勉強中です。エリザベスが来るまでスミスが1人で対応していたので、スミスは助かっていると思います」とターニャは言った。
「エリザベスも第13穀物倉庫のことは大体把握しているのでしょうか?」と俺は尋ねる。
「うーん。日常業務は慣れてきていると思います。ただ、イレギュラーな対応はまだ難しいでしょう」とターニャは教えてくれた。
それにしても、すっかり話し込んでしまった。ターニャとの会話これくらいにしておこう。
俺はターニャにお礼を言って別れた。
ターニャの話しぶりから想像するに、スミスが犯人か告発者かどちらかだろう。
スミスから話を聞く前に、まずは証拠固めをしないといけない。
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俺はルイーズに進捗を確認するために作業場に戻った。ターニャにつかまって30分以上話し込んでしまったので、ルイーズが怒っていないといいのだが。
「作業の進捗はどう?今日の仕入の納品書はあった?」と俺はルイーズに尋ねた。
「あったよ。1,500tを単価35JD/kgで仕入れている」とルイーズは答えた。
実際の仕入数量は1,750tなので250tごまかしている。これはいい証拠を入手できた。
心の中でガッツポーズをしていた俺に、「ところで、飲み物は?」とルイーズは言った。
「え?」
俺はターニャと話すのに夢中で忘れていたようだ。
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仕方ないので、俺はまた休憩室に飲み物を買いに行く。そうしたら、また、ターニャに会った。こいつは、仕事せずに、ずっとここにいるじゃないのか?
「あら、何か忘れ物?」ターニャは話し相手がやってきて、喜んでいるようだ。
「ええ。飲み物取りにきたはずが、忘れてしまって。今度は忘れずに持っていかないと」
「ところで、さっき話したスミスがそこにいるのだけど、紹介しましょうか?」とターニャは言った。
話好きのおばさんは、仕事をサボる理由を探しているのだろう。
そういうと、俺の返事も聞かずにスミスを連れてきた。
「ダニエル王子、こちらが管理部のスミスです」とターニャが言った。
急に容疑者を紹介されたから俺は内心驚くものの、平静を装ってスミスと握手した。
「はじめまして。総務省のダニエルです。今日は実地棚卸の立会いで訪問していたのですが、飲み物を取りにきたら、ターニャと話し込んでしまって」と俺は自己紹介した。
「スミスです。管理部で課長をしています。ターニャに捕まると、なかなか解放してもらえないので、急いでいるときは気をつけてください」とスミスは冗談交じりに言った。
「職場でのコミュニケーションは重要なのよ」とターニャ。
「そうですね。以後、気をつけます。それで、スミス課長は第13穀物倉庫で最古参と伺ったのですが、ここで何年勤務されているのですか?」
「長すぎて恥ずかしいのですが、今年で20年です。その前は村役場で働いていました。普通の人は数年ごとにローテーションで他の職場に異動します。私はなぜか20年人事異動がなくて、気づいたら最古参になっていた、というわけです」とスミスは言った。
容疑者と雑談をしてそれで終了、というのは探偵として不甲斐ない。
本題に入るのは危険だが、少し揺さぶりをかけてみようと俺は考えた。
「なるほど。そういうこともあるのですね。ところで、事務所で書類を確認していたのですが、小麦の在庫で気になるところが幾つかありました。その件で話を伺いたいのです。
今日は在庫棚卸があって忙しいでしょうから、明日の朝に少しお時間をいただけませんか?」と俺は言った。
「明日の朝は特に予定がありませんから、午前9時から1時間程度でいかがでしょうか?」とスミスは答えた。
俺が小麦の在庫数量について疑問を持っていることはスミスに伝わったはずだ。
これで、もしスミスが関係していたら、動くのは今日の夜から明日の朝までの間だろう。
その間を監視すれば、不正の証拠と犯人が分かるはずだ。