第1話 新たな依頼(その1)
文字数 2,265文字
俺の名前は、ダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。成り行きで内部調査部の部長をしているのだが、モチベーションを保つために『探偵』という設定にしている。
今のところ、俺の戦歴は1勝0敗1分。
不本意ながらペンディング案件を抱えている。
この『1分』は、まだ決着していないという意味だ。
個人的には『限りなく勝ちに近い、引き分け』と考えている。
次は完勝できるように頑張るつもりだ。みんなも俺のことを応援してほしい。
(1)新たな依頼
俺が総務省に出勤すると、俺の机の上に『ピロリン症候群対策プログラム』と題したレポートが置いてあった。いま総務省で緊急に対応すべき対応の一つだ。
総務省では内部告発ホットラインを国民に広めるために『採用されたら10万JD貰えるキャンペーン』をしているのだが、お金に釣られた国民がくだらない相談案件を送ってくる。
採用されたら10万JDがもらえるので、ダメ元で送ってくるのだろう。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
このキャンペーンは総務省で大問題になった。
国民はスマートフォン・アプリを使って内部告発ホットラインに情報を送ってくるのだが、事前の準備不足で、アプリからメッセージが自動的にダウンロードできなかったのだ。
このため、開始当初は送付されたメッセージを1件ずつコピー&ペーストしなければならず、スマートフォン・アプリの「ピロリン」という音を聞いただけで、おかしくなる職員が続出した。
総務省のカウンセラーは、この症状を『ピロリン症候群』と名付けた。
今はメッセージを自動的にダウンロードできるようになったが、『ピロリン症候群』を発症する職員はまだいる。
俺は『ピロリン症候群』を改善すべく、総務省内に対策チームを立ち上げた。
対策チームに参加した専門家が、いろんな観点から意見を出し合った結果、ますます議論が混乱しつつある。
俺は、スマートフォンをマナーモードに設定すればいいだけじゃないか、と考えているのだが、一部の専門家は人権団体が人権侵害だと言いかねないと言っている。
こんなことを言う専門家は、きっとマナーモードにされると困る会社(マーケティング会社?)からお金を貰っているに違いない。
マナーモードが人権侵害になるわけがないだろう。気にし過ぎだ。
***
イライラしながら『ピロリン症候群対策プログラム』に目を通していると、ルイーズが内部告発ホットラインに届いた相談案件を持ってやってきた。
鼻歌混じりなので、今日は機嫌が良さそうだ。
俺はルイーズが出してきた相談案件を確認する。
**********
高齢者を狙った投資詐欺と思われる事案が頻発しています。
個人向けとして不適切な金融商品が、高齢者向けのセミナーで販売されています。
これ以上の被害を増やさないため、本件の調査をお願いします。
***********
「高齢者向けの詐欺か。なかなか減らないね」と俺は言った。
「特殊詐欺は相変わらず多いらしいよ」
「そういえば、父親のところにオレオレ詐欺の電話があったの、話したっけ?」
「聞いてないけど」
「電話口で息子を名乗る人物が、交通事故を起こして示談金が必要だと言っていたらしい」
「へー。息子って、誰?」
「ジェームス。犯人は何番目の息子かは言わなかったようだけど、親父が勝手にジェームスだと思ったらしい」
「なんでジェームスなの?」
「アイツしか自分で車を運転しないからだよ。俺とチャールズは電車通勤だし、アンドリューは普段は公用車を使っているから、自分で運転しない」
「アンドリューは、ジェームズボンドに憧れてアストンマーティン乗っているんじゃなかった?」
「ああ。アストンマーティンはあるけど、運転免許は持ってない」
「じゃあ、何のために持ってるの?」
「それはもちろん、ジェームズボンドが乗ってるからだよ。たまにサーキットで運転しているらしい。公道は走れないんだけど」
「へー。それで、犯人は幾ら要求してきたの?」
「示談金が100万JD必要だって言ったらしい。机の引出しに入っていたから、親父は犯人に直ぐに取りに来いって言ったらしい」
「取りに来たの?」
「まさか。近くまできたかもしれないけど、警察官がいるから入れなかったんじゃないかな」
「それで解決?」
「いや。もう一度電話が掛かってきたらしい。犯人は、指定する場所まで持ってきて欲しいと言ったんだ」
「行ったの?」
「指定された場所に行ったらしいよ。でも、犯人には会えなかったみたいなんだ。SP(Security Police)が一緒にいるから、出て来れないよね」
「解決した?」
「いや。まだだ。今度は・・・」と俺が言ったら、ルイーズは「オチがなさそうだから、もういい」と言って俺の話を遮った。
「それで、この相談案件なんだけど、今までの案件よりも難易度が高そうね。投資詐欺は詐欺かどうかの判定が難しそう」とルイーズは楽しそうに言った。
俺が事件を解決できないのを楽しんでいるのではないだろうか?
「そうだね。黒とは言いきれない、グレーな案件なんだろうな」と俺は言った。
「それはそうでしょう。クロだったら、警察に相談してる。グレーな案件しか内部告発ホットラインにこないわよ」
「あ、そう。とりあえず、話を聞いてみようか」と俺はルイーズに言った。
メッセージの内容だけでは判断できないから、俺は内部告発ホットラインにメッセージをくれた人物から話を聞いてから方針を決めることにした。
<続く>
今のところ、俺の戦歴は1勝0敗1分。
不本意ながらペンディング案件を抱えている。
この『1分』は、まだ決着していないという意味だ。
個人的には『限りなく勝ちに近い、引き分け』と考えている。
次は完勝できるように頑張るつもりだ。みんなも俺のことを応援してほしい。
(1)新たな依頼
俺が総務省に出勤すると、俺の机の上に『ピロリン症候群対策プログラム』と題したレポートが置いてあった。いま総務省で緊急に対応すべき対応の一つだ。
総務省では内部告発ホットラインを国民に広めるために『採用されたら10万JD貰えるキャンペーン』をしているのだが、お金に釣られた国民がくだらない相談案件を送ってくる。
採用されたら10万JDがもらえるので、ダメ元で送ってくるのだろう。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
このキャンペーンは総務省で大問題になった。
国民はスマートフォン・アプリを使って内部告発ホットラインに情報を送ってくるのだが、事前の準備不足で、アプリからメッセージが自動的にダウンロードできなかったのだ。
このため、開始当初は送付されたメッセージを1件ずつコピー&ペーストしなければならず、スマートフォン・アプリの「ピロリン」という音を聞いただけで、おかしくなる職員が続出した。
総務省のカウンセラーは、この症状を『ピロリン症候群』と名付けた。
今はメッセージを自動的にダウンロードできるようになったが、『ピロリン症候群』を発症する職員はまだいる。
俺は『ピロリン症候群』を改善すべく、総務省内に対策チームを立ち上げた。
対策チームに参加した専門家が、いろんな観点から意見を出し合った結果、ますます議論が混乱しつつある。
俺は、スマートフォンをマナーモードに設定すればいいだけじゃないか、と考えているのだが、一部の専門家は人権団体が人権侵害だと言いかねないと言っている。
こんなことを言う専門家は、きっとマナーモードにされると困る会社(マーケティング会社?)からお金を貰っているに違いない。
マナーモードが人権侵害になるわけがないだろう。気にし過ぎだ。
***
イライラしながら『ピロリン症候群対策プログラム』に目を通していると、ルイーズが内部告発ホットラインに届いた相談案件を持ってやってきた。
鼻歌混じりなので、今日は機嫌が良さそうだ。
俺はルイーズが出してきた相談案件を確認する。
**********
高齢者を狙った投資詐欺と思われる事案が頻発しています。
個人向けとして不適切な金融商品が、高齢者向けのセミナーで販売されています。
これ以上の被害を増やさないため、本件の調査をお願いします。
***********
「高齢者向けの詐欺か。なかなか減らないね」と俺は言った。
「特殊詐欺は相変わらず多いらしいよ」
「そういえば、父親のところにオレオレ詐欺の電話があったの、話したっけ?」
「聞いてないけど」
「電話口で息子を名乗る人物が、交通事故を起こして示談金が必要だと言っていたらしい」
「へー。息子って、誰?」
「ジェームス。犯人は何番目の息子かは言わなかったようだけど、親父が勝手にジェームスだと思ったらしい」
「なんでジェームスなの?」
「アイツしか自分で車を運転しないからだよ。俺とチャールズは電車通勤だし、アンドリューは普段は公用車を使っているから、自分で運転しない」
「アンドリューは、ジェームズボンドに憧れてアストンマーティン乗っているんじゃなかった?」
「ああ。アストンマーティンはあるけど、運転免許は持ってない」
「じゃあ、何のために持ってるの?」
「それはもちろん、ジェームズボンドが乗ってるからだよ。たまにサーキットで運転しているらしい。公道は走れないんだけど」
「へー。それで、犯人は幾ら要求してきたの?」
「示談金が100万JD必要だって言ったらしい。机の引出しに入っていたから、親父は犯人に直ぐに取りに来いって言ったらしい」
「取りに来たの?」
「まさか。近くまできたかもしれないけど、警察官がいるから入れなかったんじゃないかな」
「それで解決?」
「いや。もう一度電話が掛かってきたらしい。犯人は、指定する場所まで持ってきて欲しいと言ったんだ」
「行ったの?」
「指定された場所に行ったらしいよ。でも、犯人には会えなかったみたいなんだ。SP(Security Police)が一緒にいるから、出て来れないよね」
「解決した?」
「いや。まだだ。今度は・・・」と俺が言ったら、ルイーズは「オチがなさそうだから、もういい」と言って俺の話を遮った。
「それで、この相談案件なんだけど、今までの案件よりも難易度が高そうね。投資詐欺は詐欺かどうかの判定が難しそう」とルイーズは楽しそうに言った。
俺が事件を解決できないのを楽しんでいるのではないだろうか?
「そうだね。黒とは言いきれない、グレーな案件なんだろうな」と俺は言った。
「それはそうでしょう。クロだったら、警察に相談してる。グレーな案件しか内部告発ホットラインにこないわよ」
「あ、そう。とりあえず、話を聞いてみようか」と俺はルイーズに言った。
メッセージの内容だけでは判断できないから、俺は内部告発ホットラインにメッセージをくれた人物から話を聞いてから方針を決めることにした。
<続く>