第4話 家族会議(その2)
文字数 2,052文字
(4) 家族会議 <続き>
俺は別の切り口でチャールズを論破することを試みた。
「もし発行した暗号資産が値下がりして、購入した国民が損したらどうするのですか?」と俺はチャールズに言った。
我ながらいい質問だと俺は思った。
国王が国民のことを気にするから、暗号資産交換業者の買収は没にできそうだ。
「そんなこと知らないよ。だって、投資は自己責任だろ。国債を保有している国民は、金利が上がったら既発債は値下がりして損するだろ。投資なんてそんなものだよ」とチャールズは平然と言った。
なんて自分勝手な奴だ・・・。
こういうことを言うからみんなから嫌われるんだ。
俺もコイツのことは嫌いだ。
俺の期待に反して国王は口を挟んでこない。
国民が損失を被ることを許容しているのだろうか?
まあ、いい。俺は別の話題で切り崩すことにした。
「先進国で暗号資産を発行している国は現状ありませんよ。もう少し様子を見てからでもいいじゃないでしょうか?」と俺はチャールズに言った。
「ジャービス王国が暗号資産を発行するわけじゃない。ジャービス王国が100%保有する会社が暗号資産を発行するだけだ。大丈夫じゃないかな?」
なんという勝手な理屈だ・・・。
今度は『国が暗号資産を発行しない』と言っている。
国民に誤解を与える可能性があるだろう。
チャールズの認識を訂正させなければならない。
「それは違うでしょ。国が暗号資産を発行していなくても、発行している会社をジャービス王国が100%保有しているんです。国民は国が発行していると誤認しますよ」と俺はチャールズに言った。
「そうかな? アンドリューは他の国のこと聞いている?」
都合の悪くなったチャールズはアンドリューに話を振った。
話を振られたアンドリューもいい迷惑だ。
自分には関係ないと思って話を聞いていなかったアンドリュー。
俺に『何のこと?』と小声で聞いてきた。
俺が説明すると、アンドリューはしばらく考えた後、チャールズに説明した。
「先進国の幾つかは暗号資産ではなく、デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の発行準備をしています。他国の発行目的は通貨管理なので、あくまで、貨幣という位置付けです。あと、暗号資産を自国通貨として採用する国もあります。他国の状況からすると、ジャービス王国が暗号資産を発行したり、暗号資産を自国通貨に採用したりしても、文句を言ってくる国は無いでしょう」
アンドリューはチャールズに一般論を説明した。
コイツはどちらの味方でもなさそうだ。
俺がチャールズを阻止するしかない。
俺はもう一度反対意見を出すことにした。
「暗号資産を通貨として採用しているのは、自国の暗号資産ではなく、全世界で広く流通しているものです。もしジャービス王国が暗号資産を作っても、有名な暗号資産に比べると見劣りします。流通量は限られるから、発行するメリットが無いと思いますよ」と俺は言った。
「そうだけどさ・・・。暗号資産を発行してすぐに多額の資金調達ができるとは思っていない。だけど、暗号資産を上手く流通させることができたら、ジャービス王国の財政的には非常に助かる話だ」
チャールズはそこまで言った段階で、国王の方を向いて発言した。
「国王。ジャービス王国で暗号資産を発行するために、割安の暗号資産交換業者を買収するのはどうでしょう?」
チャールズは強引に国王の同意を得ようとしている。
でも、実際に動くのは俺だ。
余計な仕事を増やさないでほしい。
「ジャービス王国で暗号資産を発行するメリットは分かった。ただ、一から暗号資産交換業者を設立したらいいのではないか? わざわざM&Aする必要はあるのか?」国王はチャールズに質問した。
いいぞ!
珍しく、いいことを言った。
と俺が思った瞬間、チャールズは返答した。
「いえ、一から暗号資産交換業者を設立するには時間とコストが掛かります。政府主導で設立するとしても、民間業者と同じ基準で許認可を取得する必要があるでしょう。そうでなければ民間業者から不満が出ます」
「そうだな」
「新会社を設立して許認可を取得するためには時間が掛かります。暗号資産交換業者として十分な実務経験を有するものを採用し、また、暗号資産の取引を行うためのシステムを導入する必要があります。いざ開始しようとしても、準備に数年かかるでしょう」
「そうか。お前の言い分は分かった。それなら『手頃な会社が見つかれば進める』ということで良いかな?」と国王は答える。
当たり障りのない回答のようだが、国王自身は別に乗り気でもなさそうだ。
ここから反対に持っていくのは至難の業だから、この辺が落とし所だろう。
「分かりました。それでは、調査の中で手頃な会社が見つかれば、チャールズ兄さんに連絡します。それでいいですか?」と俺はチャールズに確認した。
「よろしく頼む」とチャールズは言った。
助かった・・・。
とりあえず積極的に探さなくても良さそうだ。
俺は別の切り口でチャールズを論破することを試みた。
「もし発行した暗号資産が値下がりして、購入した国民が損したらどうするのですか?」と俺はチャールズに言った。
我ながらいい質問だと俺は思った。
国王が国民のことを気にするから、暗号資産交換業者の買収は没にできそうだ。
「そんなこと知らないよ。だって、投資は自己責任だろ。国債を保有している国民は、金利が上がったら既発債は値下がりして損するだろ。投資なんてそんなものだよ」とチャールズは平然と言った。
なんて自分勝手な奴だ・・・。
こういうことを言うからみんなから嫌われるんだ。
俺もコイツのことは嫌いだ。
俺の期待に反して国王は口を挟んでこない。
国民が損失を被ることを許容しているのだろうか?
まあ、いい。俺は別の話題で切り崩すことにした。
「先進国で暗号資産を発行している国は現状ありませんよ。もう少し様子を見てからでもいいじゃないでしょうか?」と俺はチャールズに言った。
「ジャービス王国が暗号資産を発行するわけじゃない。ジャービス王国が100%保有する会社が暗号資産を発行するだけだ。大丈夫じゃないかな?」
なんという勝手な理屈だ・・・。
今度は『国が暗号資産を発行しない』と言っている。
国民に誤解を与える可能性があるだろう。
チャールズの認識を訂正させなければならない。
「それは違うでしょ。国が暗号資産を発行していなくても、発行している会社をジャービス王国が100%保有しているんです。国民は国が発行していると誤認しますよ」と俺はチャールズに言った。
「そうかな? アンドリューは他の国のこと聞いている?」
都合の悪くなったチャールズはアンドリューに話を振った。
話を振られたアンドリューもいい迷惑だ。
自分には関係ないと思って話を聞いていなかったアンドリュー。
俺に『何のこと?』と小声で聞いてきた。
俺が説明すると、アンドリューはしばらく考えた後、チャールズに説明した。
「先進国の幾つかは暗号資産ではなく、デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の発行準備をしています。他国の発行目的は通貨管理なので、あくまで、貨幣という位置付けです。あと、暗号資産を自国通貨として採用する国もあります。他国の状況からすると、ジャービス王国が暗号資産を発行したり、暗号資産を自国通貨に採用したりしても、文句を言ってくる国は無いでしょう」
アンドリューはチャールズに一般論を説明した。
コイツはどちらの味方でもなさそうだ。
俺がチャールズを阻止するしかない。
俺はもう一度反対意見を出すことにした。
「暗号資産を通貨として採用しているのは、自国の暗号資産ではなく、全世界で広く流通しているものです。もしジャービス王国が暗号資産を作っても、有名な暗号資産に比べると見劣りします。流通量は限られるから、発行するメリットが無いと思いますよ」と俺は言った。
「そうだけどさ・・・。暗号資産を発行してすぐに多額の資金調達ができるとは思っていない。だけど、暗号資産を上手く流通させることができたら、ジャービス王国の財政的には非常に助かる話だ」
チャールズはそこまで言った段階で、国王の方を向いて発言した。
「国王。ジャービス王国で暗号資産を発行するために、割安の暗号資産交換業者を買収するのはどうでしょう?」
チャールズは強引に国王の同意を得ようとしている。
でも、実際に動くのは俺だ。
余計な仕事を増やさないでほしい。
「ジャービス王国で暗号資産を発行するメリットは分かった。ただ、一から暗号資産交換業者を設立したらいいのではないか? わざわざM&Aする必要はあるのか?」国王はチャールズに質問した。
いいぞ!
珍しく、いいことを言った。
と俺が思った瞬間、チャールズは返答した。
「いえ、一から暗号資産交換業者を設立するには時間とコストが掛かります。政府主導で設立するとしても、民間業者と同じ基準で許認可を取得する必要があるでしょう。そうでなければ民間業者から不満が出ます」
「そうだな」
「新会社を設立して許認可を取得するためには時間が掛かります。暗号資産交換業者として十分な実務経験を有するものを採用し、また、暗号資産の取引を行うためのシステムを導入する必要があります。いざ開始しようとしても、準備に数年かかるでしょう」
「そうか。お前の言い分は分かった。それなら『手頃な会社が見つかれば進める』ということで良いかな?」と国王は答える。
当たり障りのない回答のようだが、国王自身は別に乗り気でもなさそうだ。
ここから反対に持っていくのは至難の業だから、この辺が落とし所だろう。
「分かりました。それでは、調査の中で手頃な会社が見つかれば、チャールズ兄さんに連絡します。それでいいですか?」と俺はチャールズに確認した。
「よろしく頼む」とチャールズは言った。
助かった・・・。
とりあえず積極的に探さなくても良さそうだ。