第25話

文字数 580文字

 マスターは識里の部屋のドアレバーに手をかけました。ゆっくりと薄茶色のドアを内側に押し開き、中をさっと室内に目を走らせました。

 もちろん、私もすぐにマスターに続こうとしました。が、識里の影がすばやく私の腕をつかみ、自分の腕をしっかりとからめてしなだれかかってきたのです。

「ほうっときなさいよ。影同士、仲良くやろう?」
『ちょっ、手を離してください』

「いいじゃない」識里の影はガッシリと私の腕をホールドしています。
「早くしなさい、黒炎!」

 マスターはとがった声で言い、一人でさっさと部屋の中へ入って行ってしまいました。一来が居るので、心配はないでしょうが、好奇心がうずきます。本体と影。先ほど識里は「まだ影になっていなかったら」と言っていました。そんなことが出来るのは、私の知る限り、あの人しかいないでしょう。あの人とは……、

「おばあちゃん!」マスターの声が響きました。

 やはりマスターの祖母、桐子です。しかしなぜ……? 私はようやく識里の腕を振りほどき、声のする部屋に床を滑って飛び込みました。人型よりも影で移動した方がずっと早いからです。そして部屋に滑り込むと同時に、人型をとりました。

 そこには識里の姿はなく、マスターの祖母が、ベッドの上に足を組んで座っていました。ただし、若い頃と同じ姿です。ということは桐子ではなくその影……。
のんびりしてはいられません。
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