第103話

文字数 1,226文字

『紅霧と一来が、ある場所で会っていたそうです』
「また?」

 驚いて聞き返した稜佳の口から、太いストローがポロッと落ちました。吸引力がなくなって、ストローの真ん中にあった茶色い玉が半透明の筒の中を滑り落ちていきます。

(ふむ。これはまだ飲んだことがない飲み物ですね。どんな味なのでしょう?)

『ね、稜佳。白玉ミルクティー、って美味しいの?』

 素早く幼いアイラの姿になると、上目遣いで稜佳を見上げ、甘えるように首を傾げます。

「きゃあ! ちびアイラ! いつの間に? なになに? 白玉ミルクティー、飲みたいのー?」

 稜佳は予想通りプラスチックの容器を手渡してくれました。早速ストローに口をつけます。甘いミルクティーと共にツルンとした食感の丸い玉が口の中に飛び込んできました。噛むとプニプニとした弾力があります。

(なかなか美味しいものですね……)

 白玉ドリンクに夢中になり、無防備になってしまった私の後頭部を、稜佳がすかさず撫でまわしてきました。まあ、白玉ミルクティーの代金としては仕方がありません。

『美味しい! ぷにぷにしているんだね』

 私はストローをもう一度咥え直し、チューっと吸い込みました。

「ちびアイラ、白玉ミルクティー、気に入ったんだね。じゃあ全部あげるよ。それなら私はもう一つ、別のを買ってこようかな……」稜佳がベンチから腰を浮かしました。

「稜佳、やめなさいよ。ほら、すごい行列じゃないの」

 一来と紅霧がまた会っていたという情報に、不機嫌をフツフツと募らせていたマスターが投げやりにキッチンカーを指さしました。

 水色とクリーム色のツートンカラーの車体に、赤と白のオーニング。車の側に置いてあるカラフルな白玉のメニュー看板の前には、制服の女子高生達が群がっています。二十分ほど前にマスター達が白玉ドリンクを買った時には、さほど混んでいなかったのですが、午後4時半を回ったころから、あっという間に行列が伸びたようです。ほどほどにお腹にたまる白玉ドリンクは、学校帰りに飲みながらおしゃべりするのにぴったりなのでしょう。

「フラーミィ、私の姿で稜佳をからかうのは終わりにして、早く続きを話して」

 マスターは稜佳に自分の「ヨーグルトとぷちっとレモン」味の白玉ドリンクを押しつけました。炭酸の細かい泡がシュワッとはじけます。

「あ、ありがと……」稜佳はドリンクを受け取りながら、「私、からかわれていたのか……いや、でもちびアイラはやっぱり可愛いし……」とブツブツ独り言を言っていますが、聞こえないふりを決め込んでおきます。

 マスターは稜佳の混乱ぶりには無頓着に、「マミちゃんに危険な事はさせてないわよね?」と、私の顔を覗き込んできました。なかなか鋭い。紅霧は危険人物です。見張らせているマミに危険がないとは言いきれないません。しかし……。

『見張らせているだけだから、大丈夫だよ』幼少期の少女特有の高い声で嘘をつきます。本当の事を言えば、面倒になることは分かり切っています。
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