第130話

文字数 989文字

ロールスクリーンの内側に足を踏み入れます。優先順位。確かに人間達の視線に晒されながらしたい話ではありません。

『優先順位。私達らしい言い方ですね。わかりました……が、マスター達の前ではその言葉は使わないでいただけますか』

紅霧は片眉をちょっとあげた。同意の意味らしい。

「あんたの一番はアイラだろう。置いていきたいだろうけど、あの子は大人しく扉の見張りなんかしている訳ない」

『アイラは私が守ります』

「一来も行くというだろうね。奏多が一番信頼している人間は一来だから、何か役立つかもしれない。まあ、縁がないわけじゃなし、一来は一応、私が守ってあげるよ」

『稜佳は見張りとして待機してもらいましょう。何かあれば、一人でも鏡の外に出られますし、そもそも稜佳しか、待っていられる忍耐強さはなさそうですし、ね』

「奏多は見つかれば、奏多の影が面倒みるだろう。だけど、いいかい。間に合わなかったら、誰だろうと置いていくからね。黒炎、あんたが一番大切な者がアイラ。私が一番大事な物は鏡だ。扉さえ閉じれば、元の鏡にもどるんだ。手伝うのはただ、鏡を確実に元に戻すためさ」

紅霧は返事も聞かず、私に背中を向けて、潜り込んでいたロールスクリーンの内側から出て行きました。

――紅霧が鏡を見上げて、マスター達に降りてこいと合図する後ろ姿は、頼れる姉御といった感じですね。

 手際よく手助けして一人ずつ下に降ろしているのを眺めていると、クスクス笑いが口元に浮かんで来ました。

――優先順位? 鏡が大事ならば、キラルの扉が閉まるのをただ黙って見ていればそれでいいはずです。一人は扉の前に残して安全を確保し、扉の中に入る人間は三人の影がそれぞれ一人ずつ守る。勇勢順位という響きのよくない言葉をわざわざ持ち出したのは、誰が誰を守るのか、いわば担当を明確にしたかった……のと、もしかしたら照れ隠しでしょうかね。

分かりましたよ、紅霧。私の”担当”のアイラはお任せください。そしてあなたの本当の目的は分かりませんが、しばし私の胸の内に留めておくことに致しましょう……。あなたがあなたのやり方で人間を愛しているということは……。

 「フラーミィッ、何をボーッとしているんだい。時間がないんだ。早くこの子達に計画を説明しておくれ!」紅霧の鋭い叱責が飛んできました。

『承知いたしました』素早く笑みを消して答えると、私は皆の元へ歩み寄りました。
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