第12話

文字数 771文字

『アイラ?』

 あえてマスターの名を呼んで、制服の少女の方に注意を促しました。少女にはわずかながら、違和感があります。マスターは数秒間少女を見つめていましたが、
「そうね。まあ、放っておこうよ。私達には関係ないし」と、両手を軽くあげて肩を軽くすくめました。

日本語も完璧なマスターですが、たまに出る異国のジェスチャーはやはり自然で、日本人には格好よく映るのでしょう。周囲からチラチラと視線が向けられました。

 マスターは少女に無関心を装っていましたが、実は気になっているのは、私にはバレバレです。ちらちら視線を飛ばして、少女を観察しています。

 普通の人間の目には普通の少女のように映っていますが、影の私と、影の眷属を持つマスターには、うっすらと黒く透けているのが見えます。マスターの無言の意向を推し量り、私は床を滑り、制服の少女の背後に回りました。

 制服の少女は、イヤリングを試着しています。紅い石の付いたもの、青い石の付いたもの、18金のもの、真珠がいくつも付いているもの……手に取るイヤリングに一貫性がなく、ただ手近にあったものを手に取っているだけのようです。試着しては値札を見て、陳列棚にもどすことを繰り返しています。

 やがてイヤリングを両耳に付けた状態で防犯カメラの真下に入り込むと、手に握りこんでいたらしい別のイヤリングをポケットに滑り込ませました。そしてゆっくり他のアクセサリーを手に取って眺めたりしながら、元の場所に戻ると、試着しているイヤリングをはずして台紙に付け、陳列棚に戻しました。

「フラーミィ。今の見た?」

 一来が近寄って来て、私にささやきました。商品に興味がないため、店内を眺めていて、同じ制服の少女の様子がたまたま目についたのでしょう。

『ええ。見ました。あの行為は万引き、というらしいですね』と、一来にうなずいてみせました。
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