第200話
文字数 804文字
「動くな! 動いたら、この女を殺すからな」
エナンチオマーは私達を牽制し、冬矢の母を立たせました。
「おい、お前」とマスターを指さします。
「あんたにお前よばわりされる覚えはないわよ!」
マスターがすかさず言い返すと、エナンチオマーは紅霧の腕をひねって締めあげました。紅霧は歯を食いしばって耐えましたが、それでもグウッと喉から呻きがもれました。
「影にもどれないのっ?」稜佳が悲鳴をあげました。
『残念ながら、あのように摑まれて固定されてしまっていては……』
「白の鏡を影に渡せ!」
「渡すんじゃないよ、アイラッ!」と、紅霧がマスターを制します。
「紅霧を離して!」
「冬矢先輩、出てきてください!」口々に叫ぶ声が入り乱れます。
「白の鏡をエナンチオマーに渡しなさい、アイラ」
桐子の声が言い争う喧騒を一閃しました。
「おばあちゃん? 起きていたの? でもどうして……?」
マスターがリュックの中から鏡を取り出して覗き込みと、「このリュック、あちこち擦り切れているからね、光が漏れて来るのさ。のんびり寝てなんかいられないよ。もう買い換えた方がいいんじゃないかい?」と、桐子がおどけたように言って鏡の中で片目をつぶりました。
「でもおばあちゃんを渡すなんて出来ないよ……」
「アイラ、おばあちゃんに任せておおき。上手くいくから」
エナンチオマーがニヤニヤ笑いを広げ、ついに口がピリリと裂けます。
「早くしろ……!」白の鏡を凝視し、裂けた唇を真っ赤な舌がぞろりとなぞります。
「アイラ、おばあちゃんを信じておくれ。大丈夫さ」
エナンチオマーは躊躇するマスターの手から、鏡を無理矢理、奪い取りました。
「やった! ついに手に入れた! やったぞ!」
唇の端から空気を漏らしながら、耳障りな声でゲタゲタと笑い声をたてました。そして黒の鏡を持った腕を冬矢の母の首に回すと、もう一方の手に紅霧の腕を掴んだまま、二人を引きずってリビングにゆうゆうと移動しました。
エナンチオマーは私達を牽制し、冬矢の母を立たせました。
「おい、お前」とマスターを指さします。
「あんたにお前よばわりされる覚えはないわよ!」
マスターがすかさず言い返すと、エナンチオマーは紅霧の腕をひねって締めあげました。紅霧は歯を食いしばって耐えましたが、それでもグウッと喉から呻きがもれました。
「影にもどれないのっ?」稜佳が悲鳴をあげました。
『残念ながら、あのように摑まれて固定されてしまっていては……』
「白の鏡を影に渡せ!」
「渡すんじゃないよ、アイラッ!」と、紅霧がマスターを制します。
「紅霧を離して!」
「冬矢先輩、出てきてください!」口々に叫ぶ声が入り乱れます。
「白の鏡をエナンチオマーに渡しなさい、アイラ」
桐子の声が言い争う喧騒を一閃しました。
「おばあちゃん? 起きていたの? でもどうして……?」
マスターがリュックの中から鏡を取り出して覗き込みと、「このリュック、あちこち擦り切れているからね、光が漏れて来るのさ。のんびり寝てなんかいられないよ。もう買い換えた方がいいんじゃないかい?」と、桐子がおどけたように言って鏡の中で片目をつぶりました。
「でもおばあちゃんを渡すなんて出来ないよ……」
「アイラ、おばあちゃんに任せておおき。上手くいくから」
エナンチオマーがニヤニヤ笑いを広げ、ついに口がピリリと裂けます。
「早くしろ……!」白の鏡を凝視し、裂けた唇を真っ赤な舌がぞろりとなぞります。
「アイラ、おばあちゃんを信じておくれ。大丈夫さ」
エナンチオマーは躊躇するマスターの手から、鏡を無理矢理、奪い取りました。
「やった! ついに手に入れた! やったぞ!」
唇の端から空気を漏らしながら、耳障りな声でゲタゲタと笑い声をたてました。そして黒の鏡を持った腕を冬矢の母の首に回すと、もう一方の手に紅霧の腕を掴んだまま、二人を引きずってリビングにゆうゆうと移動しました。