第121話

文字数 567文字

「た、大変だ……」

 肩で息をしながら、一来が私の腕をつかみました。しかし私は人型ではあるが、少女を抱いているので、一来を落ち着かせるために背中をなでてやることも出来ないのがもどかしい……。などという私の感傷などものともせず、マスターは一来の手を、バシッと音を立てて私の腕からはたき落としました。

「あーら、一来が紅霧とつるんでいること以上に大変な事なんてないと思うけど?」

「ゴメン、ちゃんと、説明、」一来は息が調うのを待たずにしゃべろうとするので、言葉が続きません。

「一来君!」

呼びかける稜佳の声が少し震えています。

「アイラちゃんの言う通りだよ! それに、もし何か事情があるなら、なんでなにも相談してくれなかったの?」

「ごめん……。ごめん、言おうと思っていたんだ。公園でも……。だけどアイラは紅霧のこと、悪い奴だって決めつけていたから言えなくて……。本当にごめん。謝るから今は……、助けて……」

一来は切れ切れの言葉を重ね、頭を下げる。マスターは一来の後頭部にふうっとため息を吐きかけました。

「……仕方ないわね。それで一体何があったの?」
「奏多がいなくなったんだ」

一来の後ろから姿を現した紅霧が差し出した鏡には、覗き込んだマスター達の顔ではなく、女の子の部屋らしき空間が映し出されていました。そしてそこにいるはずの奏多もいなかったのです。
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