第40話

文字数 494文字

「イヤ」

 爽やかな朝の光さえ、遠慮して陰ってしまうような不機嫌全開のマスターです。

「お願い!」

 識里稜佳はマスターの机の前にしゃがみ込み、拝むように手を合わせてマスターの顔を覗き込みました。

「イ、ヤ。何回頼まれても同じよ。あなたのクラスは上の階でしょ? 早く戻らないと遅刻になるわよ」

 マスターは稜佳の目をしっかりと見て断ります。例えば、本に目を落として、読むふりをしながら、などという曖昧な態度はとらないのがマスターらしい。

「アイラ、少しだけでも話を聞いてあげれば……」一来が口を挟みました。

「イヤ」

 マスターがイライラと体を揺らして言い放つと、緑色のジャージが肩から盛大にずり落ちました。

(なんというだらしのない姿でしょう。だからこのジャージは嫌いなのですよ!)

 影である私も、嫌々ながらジャージを肩からズリ下げました。

もし曇っていたのなら、マスターの姿を忠実に模さなくとも目立たなかっただろうに……とため息をつきました。マスターの席は教室の一番後ろの窓際です。窓ガラスから陽がさし込み、影、つまり私の姿を色濃く映し出しているとあっては、マスターの姿を忠実に模さない訳にはいきません。
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