第145話

文字数 898文字

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 「ここ?」

 マスターが首を傾げるのも無理はありません。目の前にあるのは、慣れ親しんだ私立彌羽学園の門なのですから。

 門の向こう側には赤いレンガの道が校舎まで続いています。ヨーロッパ風のゴシック様式を取り入れた建物は、きっちり左右対称に建てられているので、左右が逆になっていても違和感は感じません。キラルの世界でも、アーチ型のエントランスは重厚でありながら、華やかです。

「うん。この前、この学園の文化祭に来たんだ。その時……」 
「君たち」奏多の話を通りがかった教師の声が遮りました。

「あっ、浅葱先生!」 
「君たち、どうしたんだい?」

 軽く微笑んで聞いてくる浅葱先生はリアル世界よりも多少くだけた感じではありますが、それ以外はあまり変わらないようです。

「あ、あの、ボク、この前の文化祭でお世話になった男子の在校生を探してるんです。お礼が言いたくて」奏多が訴えた。

 ここまで走ってきたので、奏多にナンチオマーが人間とは違う性質を持っていることを説明する余裕はありませんでした。が、それがよかったのかもしれません。
 何も知らない奏多は、エナンチオマーを前にしても警戒心もなく自然な態度です。

「文化祭の時、後夜祭のバンドを観ようと思ったんだけど、黒い服の人が一杯で。怖くて講堂に近づけなかったんだ。ちょうど門を入ったこの辺りから講堂を見ていたら、男子生徒が声をかけてくれて。自分も行くから一緒に行こうと言ってくれたんだ」

「そうか、じゃあライブを観られたんだね。それはよかった。いいライブだったでしょう? ええっと。他にその生徒を特定するような情報はあるかな?」

「髪型は普通の感じ。スポーツ刈りではないし、長くもなくて。さらさらでも天然パーマとかでもなかった。学生服も着崩してはいないし、真面目な感じだったな。背は少し低いかもしれない。この人」と一来を手で示し、「よりも背が低くてと、この人」とピュリュを示しながら「よりももっと華奢な印象なんだ。あと、顔色は青白くて、かなり痩せていた」

「ほう、ほう」浅葱先生は青白い顔でやせ形、というところまで聞くと、相づちをうちながら二回うなずきました。
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