第165話

文字数 575文字

『同情したのですか? 気の毒だな、と』
「違う!」

 奏多は首をブンブンと強く横に振りました。

「ううん、違わないけど、同情よりも、お母さんに酷く傷つけられた後なのに、ボクに優しくしてくれてすごいなって。……憧れたんだ。冬矢クンの強さに」

『ハンカチを返した時は、奏多が憧れたヒューマンの冬矢だったのですか?』

「さっきも言ったけど……、よく分からないんだ。最初は冬矢クンだと思ったんだけど、話しているうちになんとなく……、うまく言えないんだけど、素っ気ないっていうか。

でもエナンチオマーだとも思えないから、その時はハンカチを返したんだけど、別れ際に『こんなもの返さなくてもよかったのに』って冬矢クンが言ったんだよね。でも本当の冬矢クンならそんな風に言わないはずなんだ。だってボクと……」

というと、考え込むように唐突に口をつぐんだ。

『ハンカチを返したのは、いつ頃のことなんですか?』
「ええと。先週、九月七日かな?」

 連続暴行事件の最初の被害者は九月四日に襲われています。ということは、おそらく奏多が会った冬矢はすでにヒューマンではなかったのかもしれません。けれど、奏多の話の印象では、エナンチオマーでもない。とすれば、奏多が会った冬矢はやはり影だと判断していいでしょう。

――では、一番大事な質問をしましょう

『奏多、連続暴行事件の被害者の三人を知っていますか?』
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み