第199話

文字数 434文字

「先輩っ! 冬矢先輩っ」
「奏多ちゃん……っ! 危ないよお!」
「うるさいっ! 黙ってろ!」

エナンチオマーは奏多を軽々と持ち上げると、私達に向かって投げつけました。一来が奏多を受け止めようとしましたが下敷きになり、床に尻もちをつく形で倒れて、フローリングの上を滑って壁に勢いよく激突しました。

「一来君、奏多ちゃん!」

 稜佳が二人に駆け寄り、両手を広げて奏多を自分の背中にかばいました。
紅霧が鏡を狙って鞭を飛ばしましたが、鏡を割らずに絡めとろうと加減したスピードでは、エナンチオマーにかなうはずがありませんでした。余裕でかわされ、逆に、鞭に変化させている腕をエナンチオマーにつかまれ、グッと引っ張られてしまいました。

紅霧が苦悶の表情を浮かべて、一歩、二歩……と、綱引きの勝負で負ける時のように、ズルズルと引きずられていきます。

モンスターママは、冷蔵庫の前にへたり込んだままです。そして冬矢の影は、目に映る全ての出来事から心を切り離してしまったように、表情をなくしていました。
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