第78話
文字数 1,326文字
「おや。黒炎じゃないか。いいのかい? あの坊や、必死じゃないか」
『邪魔をしにきたのですか?』
「無粋だねぇ。あたしはただ、アイラの唄を聴きに来ただけさ」
私は目を細めて紅霧を見ましたが、その言葉が嘘なのか本当なのか判別がつきませんでした。
『浅葱先生を鏡から出してください』
「あたしももう充分、この先生からは精命をいただいたから、もう用済みなんだけどね。余程居心地がいいのか、出て行かないのさ」
紅霧は鏡を取り出して、フラーミィに向けて見せました。その中には、横たわり、眠っている浅葱先生が居ました。
『寝ているからじゃないですか?』
そうは言ったものの、浅葱先生の影が言った「入れ替わることを望んでいる」という言葉が頭をよぎります。あの言葉はもしかしたら浅葱先生の本心なのかもしれませんね……。とはいえ、影の私には思いの及ばぬことですが。
「さあ、どうだか」紅霧はどうでもよいことのように言って、ステージに目を向けた。「だけどさ、あれを見てごらん」2階の音響設備のあるガラス張りの部屋の中にいる、浅葱先生の影を指さしました。
「ほら、もう大分濁っちまったからね。このまんま、鏡の中で寝かせておやりよ。元に戻ったって、ツケを払うのは本体なんだから」
『ああ、私はそれでもいいのですが、やはり……』ステージを見る。『マスターには納得していただけないでしょうね。浅葱先生は鏡から出していただきますよ』とは言ったものの、鏡の中の浅葱先生は眠り続けています。
(どうしたものか……?)私は腕を組んで考えました。(無理に引きずりだしても、浅葱先生を説得できそうな人物はステージの上ですしね)
もちろん説得が期待できるのは、我がマスターではなく、スティックを振り回すのに精一杯で、こちらを見る余裕もない人物です。
一来の必死さとは対照的に、マスターと稜佳は互いの音に音をのせ、空中にある五線譜で出来た階段を駆け上がっていきます。
’世界は強く 心は沈み 砕け落ちる
自分の叫びに耳をかして
But but but……
知ってる気がする 気がするの
魂が叫ぶ方法を
闇を支配するのよ
かけがえのない新しいわたし
稲妻みたいに
心はきっと輝く かがやくの
それが真実だと知っている
I can find the new way way way
新しい道をみつけることができる、できるの………!’
マスターの歌声が講堂に響き渡り、会場を満たします。切ない響きが、しかし力強く……!
紅霧の鏡を、いや鏡の中の浅葱先生を、マスターの強い瞳がまっすぐに射貫いていました。おそらくスポットライトで白く霞んでいるであろう視界の中を、レーザーの光のようにあやまたずに。
そして力強い歌声が聴くものの頬を殴りつけます。まどろみの時は終わりだ! 目を覚ませ! そして立ち上がれ! 歌声が魂を揺さぶります。
鏡の中の浅葱先生が、重たい瞼を震わせました。目尻から涙が一筋流れ……。
音響設備の前にいる浅葱先生の影が、何か感じたのかこちらに顔を向けました。そして視線を左にずらしました。入口の方です。視線を追うと、そこにはモンスターママが立っていました。
『邪魔をしにきたのですか?』
「無粋だねぇ。あたしはただ、アイラの唄を聴きに来ただけさ」
私は目を細めて紅霧を見ましたが、その言葉が嘘なのか本当なのか判別がつきませんでした。
『浅葱先生を鏡から出してください』
「あたしももう充分、この先生からは精命をいただいたから、もう用済みなんだけどね。余程居心地がいいのか、出て行かないのさ」
紅霧は鏡を取り出して、フラーミィに向けて見せました。その中には、横たわり、眠っている浅葱先生が居ました。
『寝ているからじゃないですか?』
そうは言ったものの、浅葱先生の影が言った「入れ替わることを望んでいる」という言葉が頭をよぎります。あの言葉はもしかしたら浅葱先生の本心なのかもしれませんね……。とはいえ、影の私には思いの及ばぬことですが。
「さあ、どうだか」紅霧はどうでもよいことのように言って、ステージに目を向けた。「だけどさ、あれを見てごらん」2階の音響設備のあるガラス張りの部屋の中にいる、浅葱先生の影を指さしました。
「ほら、もう大分濁っちまったからね。このまんま、鏡の中で寝かせておやりよ。元に戻ったって、ツケを払うのは本体なんだから」
『ああ、私はそれでもいいのですが、やはり……』ステージを見る。『マスターには納得していただけないでしょうね。浅葱先生は鏡から出していただきますよ』とは言ったものの、鏡の中の浅葱先生は眠り続けています。
(どうしたものか……?)私は腕を組んで考えました。(無理に引きずりだしても、浅葱先生を説得できそうな人物はステージの上ですしね)
もちろん説得が期待できるのは、我がマスターではなく、スティックを振り回すのに精一杯で、こちらを見る余裕もない人物です。
一来の必死さとは対照的に、マスターと稜佳は互いの音に音をのせ、空中にある五線譜で出来た階段を駆け上がっていきます。
’世界は強く 心は沈み 砕け落ちる
自分の叫びに耳をかして
But but but……
知ってる気がする 気がするの
魂が叫ぶ方法を
闇を支配するのよ
かけがえのない新しいわたし
稲妻みたいに
心はきっと輝く かがやくの
それが真実だと知っている
I can find the new way way way
新しい道をみつけることができる、できるの………!’
マスターの歌声が講堂に響き渡り、会場を満たします。切ない響きが、しかし力強く……!
紅霧の鏡を、いや鏡の中の浅葱先生を、マスターの強い瞳がまっすぐに射貫いていました。おそらくスポットライトで白く霞んでいるであろう視界の中を、レーザーの光のようにあやまたずに。
そして力強い歌声が聴くものの頬を殴りつけます。まどろみの時は終わりだ! 目を覚ませ! そして立ち上がれ! 歌声が魂を揺さぶります。
鏡の中の浅葱先生が、重たい瞼を震わせました。目尻から涙が一筋流れ……。
音響設備の前にいる浅葱先生の影が、何か感じたのかこちらに顔を向けました。そして視線を左にずらしました。入口の方です。視線を追うと、そこにはモンスターママが立っていました。