第118話

文字数 821文字

 門を通って下校していく生徒が、門柱の影に立っているマスターに気が付くと、いちいち驚いていきます。金髪のツインテールが風に揺れて、通り過ぎる人の目を惹きつけずにはおかないのです。

「キズトン、最近変わったよな?」男子生徒の話し声が近づいてきました。マスター達にはまだ気が付いていないようです。

「そうだな。前はいちいちうるさかったけど、最近、何言っても返事しない。気取ってるんじゃねーっつーの」

「黒板にブタの絵描いたの、お前? 豚足に赤のチョークで傷描いてあるやつ。」
「違うよ、そこまでやらない。あれはちょっとエグ……イ」
 数人の男子が口々に話している側を、奏多という少女が追い越して行きました。正確には少女の影ですが。

「おおっと、キズトンも部活?」一旦口をつぐんだ男子が、影の背中におどけた声を投げつけました。

「ホラ、無視だろ」隣を歩く友人に向かって言うには、大きすぎる声を張り上げます。
「ちょっと! キズトンなんて言われて、どこのだれが返事をするっていうのよ!」

 稜佳が柱の影から飛び出しました。男子生徒達はビクッとしましたが、その場にいるのが稜佳とアイラの女子高校生二人だけと見ると、言い返してきました。

「誰だよ、お前? 関係ないだろ。キズトン、ってただのあだ名だよ」
「な、なによ、キズトンって……」

 答えを聞く前から、次に飛んでくるのは言葉の礫だとわかってしまうことがあります。稜佳の声がかすかに震え、小さくなりました。言葉の礫が狙っているのは、稜佳ではなく奏多だとわかっているから、なおさら言わせたくないのでしょう。稜佳がひるんだのを見てとると、まやかしの勝者が奏多の影の足を指さし、勝ち誇って言い放ちました。

「豚足に傷だからキズトンなんだよっ! 傷大根よりマシだろ」

 啖呵を切るような口調に、稜佳は気おされ押し黙ってしまいました。男子生徒に指さされている奏多のふくらはぎにある、長さ十センチ程の三日月形の大きな赤黒い痣が目をひきます。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み