第140話

文字数 560文字

思っていた以上に奏多を連れ戻すのは危険だと、はっきりと肌で感じたのでしょう。誰もが口をつぐみ、空気が暗く澱みました。

「チッ!」

紅霧がイライラと舌打ちしました。クチナシの香りの風が四人に吹きかかります。

「だからさ、エナンチオマーなんかに関わらないで、さっさと奏多お嬢ちゃんを連れて帰ればいいだけだろう? なにをグズグズ考えているのさ」

「確かにそうだね。奏多は何部なの?」

 紅霧の言葉にうなずいて、一来が不安を振り払うように、奏多の影に聞きました。

「水泳部。この時間だとプールにいるんじゃないかな」
「さすが本人の影。よく知ってるわね。じゃあプールまで案内して」

影は黙ったまま、鼻先に立てました。左右が逆の配置になっているので、頭の中で位置を確認しているようです。しかしすぐに「こっち」というと、先に立って歩き出しました。
校舎の裏側に位置する場所に、かまぼこ型の更衣室が建っています。更衣室に繋がる形で、足を消毒する足首ほどの高さの浅いプールと、シャワーがあります。プールが見えにくいように目隠し用の塀でぐるりと囲ってある。プール開きしたばかりなので、晴れてはいるがまだ水は冷たいだろう。

『おっと。奏多が三人になるのは、さすがに人目を引いてしまいますね。影、あなたは自分の本来の姿になっていた方がいいでしょう』

「わかった……」
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