第139話
文字数 730文字
『さあ、急ぎましょう』
私が言うまでもありませんでした。追われているように全員の歩くスピードがあがり、塩山中学校の前の坂道を黙って登っていきます。
「グラウンドの位置が逆ね」と言って、マスターはグラウンドを囲むように立っている緑色の網目のフェンスを少し触りました。手に埃が付いてしまい、眉間にしわをよせて手で埃をはらいます。
「あっ、あいつ!」一来がグラウンドの中を指しました。
「奏多はいないじゃない」
「奏多じゃなくて。あのグラウンドを走っている奴、いつも奏多をからかってる」
向こうも影の奏多を見つけたらしく、手を振って笑顔を向けてきました。どうやらキラル世界では、リアル世界とは違って奏多と奴は良好な関係のようです。
「やっぱり単純に左右が逆の世界だという訳ではないんだね」
一来が不思議そうにつぶやきました。リアル世界で、奏多が酷いあだ名で傷つけられるのを見ていたので、不思議に感じるようです。
『そうですね。エナンチオマーとリアルの世界の人間が同じではないように、キラルとリアルは似ていても違う世界なのです』
「キラルの世界の人には、自分がエナンチオマーだという自覚はあるのかな?」
『そうですね。先ほどのサカイ君のお母さんの様子を見ても、そう考えて間違いないでしょう』
「扉が閉まったら、キラルの世界はなくなるって言っていたよね」
『はい。扉が閉まれば鏡の世界の時は止まり、リアル世界を映すだけになります。そうなれば今いるエナンチオマーは消滅します。それがわかっているのでキラルの扉を抜けてリアル世界へ逃げ出したいのでしょう』
「じゃあ、言ってみればこの世界の全ての住人が……」
『私達がリアルだと知れば、キラルの扉の場所を言わせようと襲ってくるかもしれないということです』
私が言うまでもありませんでした。追われているように全員の歩くスピードがあがり、塩山中学校の前の坂道を黙って登っていきます。
「グラウンドの位置が逆ね」と言って、マスターはグラウンドを囲むように立っている緑色の網目のフェンスを少し触りました。手に埃が付いてしまい、眉間にしわをよせて手で埃をはらいます。
「あっ、あいつ!」一来がグラウンドの中を指しました。
「奏多はいないじゃない」
「奏多じゃなくて。あのグラウンドを走っている奴、いつも奏多をからかってる」
向こうも影の奏多を見つけたらしく、手を振って笑顔を向けてきました。どうやらキラル世界では、リアル世界とは違って奏多と奴は良好な関係のようです。
「やっぱり単純に左右が逆の世界だという訳ではないんだね」
一来が不思議そうにつぶやきました。リアル世界で、奏多が酷いあだ名で傷つけられるのを見ていたので、不思議に感じるようです。
『そうですね。エナンチオマーとリアルの世界の人間が同じではないように、キラルとリアルは似ていても違う世界なのです』
「キラルの世界の人には、自分がエナンチオマーだという自覚はあるのかな?」
『そうですね。先ほどのサカイ君のお母さんの様子を見ても、そう考えて間違いないでしょう』
「扉が閉まったら、キラルの世界はなくなるって言っていたよね」
『はい。扉が閉まれば鏡の世界の時は止まり、リアル世界を映すだけになります。そうなれば今いるエナンチオマーは消滅します。それがわかっているのでキラルの扉を抜けてリアル世界へ逃げ出したいのでしょう』
「じゃあ、言ってみればこの世界の全ての住人が……」
『私達がリアルだと知れば、キラルの扉の場所を言わせようと襲ってくるかもしれないということです』