第１０６話

『あら、いつもの調子が出て来たじゃない、アイラ』

首をすくめ、ツンと顎をあげます。マスターは頬をこわばらせ、口の中で歯ぎしりの音を立てました。

　マスターはストローをパクリと咥え、「白玉ミルクティー美味しいわあ」とズズッと音を立てて、最後の白玉を吸い込みました。ことさらにゆっくりと口の中の白玉を噛み砕きます。

『あーっ！　私がもらった白玉ミルクティ！　最後のひとくち、飲むの楽しみにしてたのに！』

　思わず、抗議の声をあげてしまいました。ちびアイラの声では迫力に欠けますが、背に腹は代えられません。チビアイラ姿の金色の髪が浮き上がり、足元にはつむじ風が渦を巻きます。
ベンチに置いてあった紙ナプキンがフワリと浮き上がりました。

「まっ、まあまあまあ。今はケンカしている場合じゃないでしょ？　一来くんの事を考えないと」

　稜佳が手のひらを下に向け、落ち着いて、と何度もヒラヒラさせました。

「そうだったわ」
『そのとおりだね！　稜佳』

　浮き上がっていた紙ナプキンも、ひらりとベンチに舞い落ちます。
マスターが猫のようなつり目をさらに吊り上げて、「ちょっと、マネしないでよ」と睨んできましたが、ツン、とそっぽを向きます。

あわてて稜佳がわざとらしくゴホゴホ、と咳き込んだ後、「それでマミちゃんは他にはなんて言ってたの？」と、割って入ってきました。