第17話

文字数 578文字

「精命って……?」

『なんでもいいのですよ。瞳でも腕でも。人間に限らず、万物には精命というものがあるのです。
そして取りたての人間の体の一部には、精命が残されています。
私たちはその精命を食べて動けるようになるのですが、その時間は精命の分量によって変わるのです』

 少しからかいたくなって「瞳」と「腕」という単語を強調して重々しく言う。

「ぐえっ。瞳に、腕ぇ?」一来は顔を苦しげにゆがめた。

 予想通りの反応がおもしろくて思わず笑いが漏れてしまいましたが、今は影なので、私が笑ったことは一来には見えないでしょう。

『しかしまあ、通常は髪の毛や爪ですよ。切っても痛くありませんから。
切った瞬間から精命が零れ落ちてしまうので、すぐにいただかなくてはいけません。
究極のナマモノなのです。例えばマスターが影に髪の毛を二、三センチ与えれば、どんな影でも三分ほどは動けます。マスターは精命の量が普通の人間よりも多いですから』

「へえ。じゃあ僕の髪の毛だったら、どの位?」
『そうですね。では試しに二、三本いただけますか?』

「抜けばいい?」と言いながら、一気が髪を引っこ抜きました。
「はい、どうぞ」

 舌の根も乾かぬうちにではなく、精命がこぼれぬうちに、私は一来の手にさっと這い上り、すばやく髪をいただきました。

「ちょっとフラーミィ、お行儀が悪いわよ!」というマスターの注意は聞き流します。
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