第6話

文字数 440文字

 それにしても、人はそんなにしょっちゅう困った事態になるものだったでしょうか? 一来の行く先々で、なぜか人は転んだり財布を落としたりするのです。

「なぜいちいち助けるのかしら。放っておけばいいのに……」

 赤信号で立ち止まった一来に見つからないように、マスターは物陰に身をひそめつつ、私に話しかけました。

 一来の隣には、小学生の男の子が一人。手に持った網状の袋の上から、サッカーボールを蹴っています。何度目かに蹴った時、網が破れ、ボールが転がりました。
 次の瞬間、キキーッという甲高い急ブレーキの音が響き渡りました。ボールを追いかけて少年が道路に飛び出したのです。

黒炎(くろめほむら)ッ」マスターの鋭い呼名に応えて、私はアスファルトを滑りました。
 バンッ! という大きな衝突音。間に合いませんでした。


 …………私は。

 サッカー少年は、一来が後ろからつかまえて、歩道に引き戻したので無事でした。衝突音は跳ねたボールが車のフロントガラスにぶつかった音です。一来はボールを拾ってやり、少年に手渡しました。
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