第187話
文字数 649文字
「紅……、紅や……」
人間達が寝静まった頃、かすかな声が聞こえてきました。私達、影は完全に眠ることはありません。浅いまどろみは、かすかな物音でも破れ完全に覚醒します。
気が付かなかったふりをしていると、紅霧が動き出す気配がしました。そしてアイラの枕元から、白の鏡を手に取ると覗き込み、鏡の中に向かってうなずきました。鏡を手にしたままそっと立ち上がります。扉を開けるとキイ、とかすかにきしみました。
紅霧は顔をしかめましたが、手にしている鏡は実体なので、影となって隙間をすり抜けることはできず、扉を開けざるをえなかったのでしょう。
私は影になり、闇にまぎれて後を追いました。紅霧の紺色のワンピースは闇に沈んでいますが、白い襟が蝶が飛んでいるように廊下を進んでいきます。紅霧が誰も使っていない部屋に吸い込まれるのを確認すると、私もすばやく部屋に入り込んで身を潜めました。曇っているのか、月明かりさえ差し込まない暗い室内から声だけが低く響いてきます。
「桐子。どうしたのさ……」
「紅、いいかい。よく聞いて。エナンチオマーは油断できない相手だということはわかっているね?」
「うん。だけど、桐子を鏡から追い出すようなことは私の真名にかけてさせないから、心配いらないよ」
「フラーミィ、そこにいるね?」
気配を消していたつもりだったが、気が付かれていたならば仕方ありません。人型となり、鏡の側へ寄りました。
「フラーミィにも私がこれから成すことを、知っておいて欲しい。そしてアイラをまもっておくれ」
「承知しております、桐子」
人間達が寝静まった頃、かすかな声が聞こえてきました。私達、影は完全に眠ることはありません。浅いまどろみは、かすかな物音でも破れ完全に覚醒します。
気が付かなかったふりをしていると、紅霧が動き出す気配がしました。そしてアイラの枕元から、白の鏡を手に取ると覗き込み、鏡の中に向かってうなずきました。鏡を手にしたままそっと立ち上がります。扉を開けるとキイ、とかすかにきしみました。
紅霧は顔をしかめましたが、手にしている鏡は実体なので、影となって隙間をすり抜けることはできず、扉を開けざるをえなかったのでしょう。
私は影になり、闇にまぎれて後を追いました。紅霧の紺色のワンピースは闇に沈んでいますが、白い襟が蝶が飛んでいるように廊下を進んでいきます。紅霧が誰も使っていない部屋に吸い込まれるのを確認すると、私もすばやく部屋に入り込んで身を潜めました。曇っているのか、月明かりさえ差し込まない暗い室内から声だけが低く響いてきます。
「桐子。どうしたのさ……」
「紅、いいかい。よく聞いて。エナンチオマーは油断できない相手だということはわかっているね?」
「うん。だけど、桐子を鏡から追い出すようなことは私の真名にかけてさせないから、心配いらないよ」
「フラーミィ、そこにいるね?」
気配を消していたつもりだったが、気が付かれていたならば仕方ありません。人型となり、鏡の側へ寄りました。
「フラーミィにも私がこれから成すことを、知っておいて欲しい。そしてアイラをまもっておくれ」
「承知しております、桐子」