第26話
文字数 481文字
「この女の人が、突然現れたんだ……」
一来はまだ動揺がおさまらないようで、きょときょとと落ち着かない瞳で、私と女性を交互に見ています。その女性は影なのですから、どこにでも潜んでいられるのですよ、と説明してさしあげたいところですが、今はその余裕がありません。
「アイラ、久しぶりだねぇ。まだ本体と入れ替わってもいないのに、おばあちゃんと呼んでくれるのかい? それともそんなに実体があるように見えるのかい?」
桐子の影は、唇の片方の端だけを歪めて、からかうような笑い声を、喉の奥でクツクツと鳴らします。
「おばあちゃんの、影ですって……?」
「だから、そうだって言ってるだろ」 20代の姿には似合わぬ、しゃがれ声です。「そうだねえ、私のことは紅霧 とでも呼んでおくれ」
マスターの祖母の桐子は、優しげな瞳の中にかげりのある、上品な白髪の女性です。
しかし目のまえに座っている紅霧は、桐子の20代の頃の姿です。そして身にまとう空気は禍々しい。
若く美しいが、唇を長い舌がぞろりとなぞる様子は、まるで蜥蜴 のようです。ぬらぬらとした妖艶さがただよい、見るものの心をざわつかせます。
一来はまだ動揺がおさまらないようで、きょときょとと落ち着かない瞳で、私と女性を交互に見ています。その女性は影なのですから、どこにでも潜んでいられるのですよ、と説明してさしあげたいところですが、今はその余裕がありません。
「アイラ、久しぶりだねぇ。まだ本体と入れ替わってもいないのに、おばあちゃんと呼んでくれるのかい? それともそんなに実体があるように見えるのかい?」
桐子の影は、唇の片方の端だけを歪めて、からかうような笑い声を、喉の奥でクツクツと鳴らします。
「おばあちゃんの、影ですって……?」
「だから、そうだって言ってるだろ」 20代の姿には似合わぬ、しゃがれ声です。「そうだねえ、私のことは
マスターの祖母の桐子は、優しげな瞳の中にかげりのある、上品な白髪の女性です。
しかし目のまえに座っている紅霧は、桐子の20代の頃の姿です。そして身にまとう空気は禍々しい。
若く美しいが、唇を長い舌がぞろりとなぞる様子は、まるで