第13話

文字数 788文字

「フラーミィも見たなら、僕の見間違いじゃないね」というと、一来は制服の少女の方に歩いて行こうとしました。

『お待ちください。何をなさるおつもりですか?』
「だって、やめさせなきゃ。店を出る前なら未遂だし」

『認めないでしょう。ここでもめるわけにはいかないのですし、それに……』少女の後ろ姿を見る。やはり……。『あやつは人ではありません。影です』

「影? じゃあ人間の識里(しり)さんはどこにいるんだよ?」

 万引き少女は識里という名前なのですね。マスターはきっと名前を知らないでしょう。一来はなかなか役に立ちます。

『本人がどこにいるのかはわかりませんが。よく見てください。あやつには影がありません』
それに一来には見えないかもしれないが、うっすらと黒く透けているのです。

「本当だ。それに、なんだか気持ち悪いね。あのチラチラ飛んでいる虫みたいなのはなに?」
『ほう。よく見えますね……』

 最初に少女に気が付いた時、影の識里は私がアイラの姿をしている時と同じように、最初はうっすらと黒く透けているだけでした。その黒はブラックダイヤモンドのように透明度が高く美しかったのですが……。

 イヤリングをカバンに入れてから、透明度は急速に失われてしまいました。そして体を覆っているにごったもやが小さく千切れ、黒い羽虫のように周りを飛び交い始めていました。

『万引きなんかよりも、黒い羽虫にたかられる方が、ずっとやっかいです』
「どういう意……」一来の返事が突然途切れました。しかも視界からも突然消えてしまいました。

『一来? どうしたのですか?』
「フラーミィ! 私を差し置いて、なにコソコソふたりで話しているのよ!」

 いつの間にか一来の背後に回っていたマスターが、ドスのきいた……、失礼。低い声で言いました。瞬時に消えたように見えた一来は、マスターに後ろから膝かっくんされ、よろけて床にしゃがみ込んでしまったようです。
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