第20話

文字数 388文字

「識里さんについて行っちゃっていいの?」

一来が小声でしごくもっともな質問をしました。

「いいのよ。立派なマンションだもの。きっとオートロックよ。鍵がかかっちゃったら、入れなくなっちゃうじゃないの」

 マスターが声を潜めるわけでもなく答えたせいで、識里の影が振り返って、咎めるように目を細めて、こちらを見ました。

「あんたたち、付いてきてたの? なにか用?」
「えーっと。あなた、誰だっけ?」

 主人は識里の名前を忘れてしまったようです。それとも、もともと覚えていないのか……。
 マスターの少々失礼な質問に、識里(しり)は眉をひそめて答えました。

識里稜佳(しりいつか)。去年、同じクラスだったじゃない」

 呆れたように言うと、石で出来た小さなテーブルの上面にあるパネルのキーボードでいくつかの数字を押しました。それから手のひらをセンサーにかざします。ピッと音が鳴り、部屋の番号が点滅しました。解錠したようです。
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