第141話

文字数 392文字

奏多の影が本来の姿を現すと、ライラックの優しく甘い香りがほのかに立ち昇る。枝を切ってしまうと香りを放たなくなってしまうライラックの繊細な香りは一瞬で空気に溶けていった。

「あれっ。男なんだ!」一来が驚いた声をあげました。
「まぁね」

「そうだ、君の名前は?」
「言う訳ないだろ」
『真名を聞いているんじゃないですよ。通称名のことです』
「ああ……、ピュリュ。雪っていう意味」

――へえ! 素敵だね

 稜佳の声が胸ポケットから響いてきました。
ピュリュは黙って肩をすくめると、下を向いて歩調を早めました。ぼそりと答える声もメゾソプラノから少年の声に変わっています。

見た目は十代の少年のようで、中学校の制服姿。ワイシャツの第一ボタンをはずし、ズボンのウエストは緩めでやや腰の位置を下にずり落とすように履いています。真っ黒な髪はまっすぐで、細くて猫っ毛。そして長めの前髪の間から上目遣いに覗く瞳も漆黒でした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み