第27話
文字数 704文字
「私の方が、きれいだろ」
紅霧が首を傾げて問うと、マスターと私、なぜか桐子を見たことのない一来までが、いっせいに首を振りました。
ひゅっと風切り音がなり、紅霧から鞭のように影が伸びてきました。私はとっさにマスターを抱えて横に飛び、鞭を避けました。鞭は一来をなぎ倒し、何事もなかったかのように紅霧の一部に戻りました。
『あー、すみません、一来』
あなたのことを忘れていました、という言葉は、すんでのところで飲み込みました。
「いや、だ、大丈夫」
見ると、一来の頬が切れています。血は精命がむき出しになっています。人の鼻では感知できないほどかすかに、鉄のような香りが空気に漂いました。私は思わずふらふらと一来に近寄ると、顔を寄せぺろりと血を舐めました。
『ああ、これは美味ですね……』
「ちょっと! お行儀悪いわよ、フラーミィ!」
マスターの叫び声が響き渡りました。見れば、顔を真っ赤に染めて、頬を膨らませています。
――ほう。これはなかなか見られない顔ですね――
『すみません、アイラ。我慢できなくて』
ゆるむ口元を隠して、一応、謝っておきましょう。一来の血は、髪の毛よりも精命の量がかなり多いようです。力がみなぎり、私を取り巻いている風がひとまわり大きく、強さを増しました。さいわい、紅霧は離れた位置にいたため、一来の血に気がついていないようです。
「なぜ、おばあちゃんの影が、識里稜佳とその影を入れ替えようとしているのよ?」
マスターが常よりも低い声で尋ねました。猫が飛びかかる前に唸り声をあげているようです。
『珍しくいい質問ですね、アイラ』
マスターが大きな目を細めて睨んできます。変ですね……。褒めたのになぜでしょうか?
紅霧が首を傾げて問うと、マスターと私、なぜか桐子を見たことのない一来までが、いっせいに首を振りました。
ひゅっと風切り音がなり、紅霧から鞭のように影が伸びてきました。私はとっさにマスターを抱えて横に飛び、鞭を避けました。鞭は一来をなぎ倒し、何事もなかったかのように紅霧の一部に戻りました。
『あー、すみません、一来』
あなたのことを忘れていました、という言葉は、すんでのところで飲み込みました。
「いや、だ、大丈夫」
見ると、一来の頬が切れています。血は精命がむき出しになっています。人の鼻では感知できないほどかすかに、鉄のような香りが空気に漂いました。私は思わずふらふらと一来に近寄ると、顔を寄せぺろりと血を舐めました。
『ああ、これは美味ですね……』
「ちょっと! お行儀悪いわよ、フラーミィ!」
マスターの叫び声が響き渡りました。見れば、顔を真っ赤に染めて、頬を膨らませています。
――ほう。これはなかなか見られない顔ですね――
『すみません、アイラ。我慢できなくて』
ゆるむ口元を隠して、一応、謝っておきましょう。一来の血は、髪の毛よりも精命の量がかなり多いようです。力がみなぎり、私を取り巻いている風がひとまわり大きく、強さを増しました。さいわい、紅霧は離れた位置にいたため、一来の血に気がついていないようです。
「なぜ、おばあちゃんの影が、識里稜佳とその影を入れ替えようとしているのよ?」
マスターが常よりも低い声で尋ねました。猫が飛びかかる前に唸り声をあげているようです。
『珍しくいい質問ですね、アイラ』
マスターが大きな目を細めて睨んできます。変ですね……。褒めたのになぜでしょうか?