第16話

文字数 619文字

 嫌な予感、などという曖昧な感情は影の私は持ち合わせていません。つまり、この不吉な予測は、明確な危険信号だということです。

「フラーミィ!」

『おや、マスターに一来。ようやく追いついてこられたのですね。with heartごっこは終わったのですか? 共にあれ、そして助けよ、でしたっけ?』

「おだまり!」

マスターは私をにらみつけました。非常に愉快です。するりとマスターの足元に戻り、一来に問いかけました。ちなみにマスターの答えは聞くまでもないので、聞くだけ野暮というものでしょう。

『一来、ホンモノの識里を助けたいのでしょう?』
「もちろんだよ!」

「ちょっと! 私は他人のために影の魔法は使わないわよ」

 一来の言葉にマスターの不機嫌そうな声が被さりました……が、予想通りなので放置します。

『では、本体の所に影が戻るまで、このまま泳がせましょう』

「まだるっこしいわね。とっつかまえて、本体の居場所を聞けば済む事なんじゃないの?」マスターが口を挟みました。

『そう事は単純ではないのです。無理なことをしたら、本体がどうなるのかわかりません。』

「どういうこと? 本体がどうなろうとどうでもいいけど」

「よくないよ」と一来は軽くマスターを諫めると、マスターの足元に視線を落とし、影の私を見つめました。

「なぜ影が本体にもどるってわかるの? このまま逃げちゃえばいいんじゃない?」

『一来、いい質問です。私たち影は精命を受けることで意思を持ち、ひととき動けるのです』
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