第１５６話

【市内の中学校の生徒が襲われた。同中学校では３人目の被害者であることから、県警は連続暴行事件と断定し、通り魔的犯行とえん恨の可能性の両面から傷害容疑で逃げた男の行方を捜査している。負傷した三人は命に別状はなく、「知らない男に襲われた」と話している。（20XX/09/XX-20:31）】

　マスターの席の隣の席に、ちゃっかり座りこんでいる稜佳が、スマートフォンのニュース記事を読み上げました。事件の被害者の怪我はたいしたことはなかったということですが、連続暴行事件というセンセーショナルな事件は、市内の学生達に知らない者はなく、噂と憶測が飛びかっています。そして私立彌羽学園でも、それは例外ではありませんでした。

「ねえねえ、一来君。　中学校……ってどこの学校かなぁ？」

　稜佳は歩いてきた一来を手招きしながらたずねました。

「さあ……？」
「そうだ、ねえ、マミちゃん、知ってる？」

マスターの机の上にいた小さな蜘蛛が、クルクルとした瞳で稜佳を見上げました。

「いくらマミちゃんでも、知らないかー」

　返事を期待して聞いたわけではなかったのだろう。稜佳は笑って言うと視線を移しました。すると蜘蛛は抗議するように、ピョンッと稜佳の手に飛び乗りました。

「ひゃあぁぁぁ！」

　カサッという小さな虫の足が肌に触れる独特の感触に、稜佳は悲鳴をあげました。

「稜佳、ちょっと、うるさいわよ。そんなことくらいマミちゃんが知らないわけがないでしょ？」

　マスターは稜佳に冷ややかな視線を投げておいて、小さな蜘蛛にニッコリと微笑みかけました。

「それでどこの中学だったの、マミちゃん？」