第183話

文字数 685文字

「冬矢の影がまた誰かを襲う前に、鏡の中の冬矢に、奏多は報復など望んでいないからやめるように説得してもらえないかい? 本体が止めれば影も踏みとどまるはずだからね。それともあいつらに報復して欲しいかい? それなら無理には頼まないけど」

「ボクは報復なんて望んでないよ。やりかえして欲しかったなら、ピュリュにやってもらうことだってできたんだから」

「そういえば、そうね。なぜやっつけてもらわなかったの?」

 マスターがいかにも惜しい事をした、とでもいうように尋ねました。

「もともとは、あいつらとも関係は悪くなかったんだ。だけどボク一人が水泳の大会で勝ち進んだ。皆はもう試合は終わっているから、練習もなんとなく気が抜けてた。今ならそれも仕方ないと分かるけど。あの時はボクも必死だったし周りが見えてなかったから」

「あんたたちのいい方で言うと、温度差、ってやつかもねえ」紅霧が解説を挟みます。

「我慢していたけれど、ある時、『あんまりガツガツするなよ』って言われて、カチンと来た。それから『お前が勝つと応援に行かないといけなくなるから、負けたっていいじゃないか』って。ボクも『負けろって言っているのか』って言い返して、ケンカになった。今なら……ボクももう少し違ういい方もできたかもしれないし、あいつらの言葉も無理しすぎるなよ、っていう助言という風にも考えられたかもしれないけど」

「……さあ、ほら、暖かいうちに食べなよ」

 紅霧がまだ充分に熱い鍋から、とりどりの具を奏多のとんすいによそう。ふたたび湯気が立ち上った器を手渡された奏多は、頭をちょんと下げると、ため息のような言葉を吐き出しました。
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