第129話

文字数 707文字

床と同じライトブラウンのシンプルな扉は、四分の三ほど開いています。 私もドアのレバーに手をかけて、そっと前後に揺さぶってみました。ドアストッパーのような、ドアを抑えているものはないにもかかわらず、びくともしません。

力を入れてみても動かない。ドアではなくて壁のようです。しかし閉じる方に力を込めて押すと、ようやくわずかに動きそうな手ごたえを感じて、すぐに力を抜きました。扉が閉まったら大変です。

『力いっぱい押せば、閉めることは出来そうですね。しかし開けることは出来ない』

「開けられないってことは、制限時間は伸ばせないか。やっぱり急がないといけないね。扉が閉まりそうになったら連絡するために、誰かが扉を見張っていた方がいいんじゃないかい。ここなら、いざというとき鏡から出ることも出来るし」

『何があっても、見張りに残った人間だけは、リアル世界に戻れる、と。あなたがそんなことを言うなんて意外ですね』

「うるさいね、フラーミィ! そんなことより、窓も開けない方がいいね。キラルの扉が二つになったらどうなるのか、想像もつかない」

紅霧は体ごと窓の方に向き直りました。窓にはカーテンではなく、落ち着いたピンク色の無地のロールスクリーンがかけられています。

ロールスクリーンをもちあげ、手でめくると、窓の外は乳白色のモヤに沢山の色でマーブル模様を描いたような空間が広がっていました。マーブル模様はゆっくりと動めいて、眺めていると不安な気持ちになってくる。見たことのない景色に、ここが鏡の中だとはっきりと認識させられます。

紅霧がロールスクリーンの内側に入り、私を手招きしました。「ちょいと黒炎、優先順位をはっきりさせておこうじゃないか」
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